魔王に甘いくちづけを【完】

しーんと静まる部屋の中皿に当たるフォークの音を友にして、もそもそと口にする。

セラヴィの命令なのかしら、丁寧にも全部一口大に切ってある。

テーブルの上には、デザートとスープ用のスプーンがあるだけで、ナイフがない。

朝の出来事で、例え食事用だとしてもナイフは危険だと判断したのかしら。

いくらなんでも、あれでは肌は傷付かないと思うのに。

結構心配症なのかもしれない。


セラヴィは私を送り届けた後すぐに政務に向かったみたいだけれど、体の具合は大丈夫なのだろうか。

あの苦しげな様子を見てしまうと、さすがに気になってしまう。

問いかけた後すぐに平気そうに取り繕っていたけれど。

辛そうに見えた、随分と。


ヤナジの夜会の日に、ラヴルが力を使いすぎた時と重なる。

だけど、セラヴィの様子は疲労してるだけではないように見えた。

あの仕草、体の内側が痛むような・・・。

どこか病気なのかもしれない。

この城にも、ジークのようなお医者様はいるのかしら。



“人の血は魔力を強め、だんだんに長寿にする”


バルの話が全て本当なのだとしたら、もしかしたら、私の血が彼の病気を治すのかも。

そう考えれば、頑なにも私を妃にしようとする理由も納得がいく。

今以上に力を増して病気も治せるんだもの、こんなに都合がいいことはないわ。



“私には貴女が必要だ”



―――ラヴル・・・。

セラヴィは、貴方と同じことを私に言ったわ。

貴方には、違う理由があるのよね?

貴方は、私がここにいることを知らない。

まだバルの城宮にいると思ってるわ。

ここに、魔王セラヴィの城にいると知ったら、貴方はどうするのかしら。

それでも迎えに来てくれる?

それとも――――・・・。



だめね・・・。

どう贔屓目に考えても、迎えに来てくれるなんてとても思えない。

バルのところにいた時と条件が違うもの、無理だわ・・・。



食事を止め、フォークを握り締めて目の前の空間をただ見つめる。

滲み始める視界に、向かい側にある空っぽの椅子が大きく映る。

頭に浮かぶのは、ルミナの屋敷のお部屋でのこと。



あのときラヴルは、向かいに座って私が食事をするところをじっと見ていたっけ・・・。

とても食べづらくって・・困ったことを思い出すわ・・・。


瞳からこぼれた滴が頬を伝い流れ、テーブルにぽたぽたと落ちて白いクロスに染みていく。



ラヴル―――

貴方は今、何処にいますか。

何を、考えていますか。

一日に一度・・・ほんのひとときでも、私のことを思い出してくれてますか。


私は、貴方に・・会いたい―――