魔王に甘いくちづけを【完】

「掴まれ」と言われて視界が闇に染まり、気付けば彼の寝室にいた。

スタスタと部屋を横切って行く時、大臣らしき立派な身なりで二人ほどが渋い顔付きでドア付近に立っているのを横目に掠める。

もしかしたら予定がおしてるのかもしれないと思ったけれど、肝心のセラヴィはちらっと一瞥しただけで急ぐ風もなく「待たせておけ」と一言言い放って壁に掌を当てた。

今は丁度お昼の時間らしく、城の中がいい匂いに包まれている。

ソファに下ろされて「あの場所に行きたくなれば、すぐに言え」と命じるように言ったセラヴィは、指をぱちんと鳴らして消えてしまった。


緊張から解放され、大きく息を吐きながらよろめくようにソファの座面に手をつく。



「なんてことなの・・・」


ざわざわする胸を押さえてひとりごちる。

まさか、セラヴィが魔王だなんて。

そんなこと、聞いてない。

あのときに決意した私の思いは・・・これからどうしたら―――



「ユリア様、失礼致します」


カラカラと軽やかな音を立てるワゴンに乗って、食事が運ばれてきた。

朝と一緒の愛想のない給仕の顔をじっと見つめる。


・・・このヒトは何処から出入りしてるのかしら。

そもそもこのワゴンもどこから来てるの?

食事は何処で作ってる?

この階の下には沢山部屋がありそうだけど、階段、ないわよね?

もしかして、反対側にはあるのかしら。



素朴な疑問が湧いてきて、聞きたいけれど怪しまれるかもしれないと思うと躊躇する。

朝だって同じ様なことを聞いてさんざん怪訝な顔をされたのだ。

セラヴィに伝わって変な風に誤解されたらまた“未練を絶つ”とか言い出しかねない。

いろいろ聞き出すのも慎重にしないと、大変なことが起こってしまう。


ずっと優しく接されていたから、少し油断していた。

庭の一件で、とても怖い方で気を許せないと再認識したのだ。

交わす会話にも気を付けないと、思わぬところに光りの球を落としかねない。

例えば、ルミナ、とか。

想像して恐怖に震える。

そういえば、リリィが言ってたっけ。

“機嫌が悪いとカミナリが落ちる”って・・・。



「ユリア様此方へどうぞ」



テーブルの上には、お昼とは思えないほどの数のお皿が並べられてる。

盛られてる量は少なめなんだろうけど、残さず食べろ、とナーダに教育された身にはちょっとキツイ多さ。

朝に、お昼は少なめにお願いしますって、言ったのだけど。

これが少なめなのかしら・・・。


給仕も皿を並べたらさっさと出て行ってしまい、一人きりになった。