魔王に甘いくちづけを【完】

「主がいるのは知っている。だが、そのようなこと、私にはどうでも良い。それに、だ。勘違いするな。黒髪の人の子であれば、誰でも良いわけではない。若く美しければ良いというものでもない。貴女でなければならんのだ」


我が欲するは、貴女だけ―――

逸らさずにじっと見つめてくる瞳は温度がないままながらも真剣さが感じられて、その場しのぎのことを言ってないように思える。



―――私でなければだめ・・。

一体どうして。私のどこが、貴方にそう思わせるの?

黒髪が理由ではない、そう言うのなら何故―――?



何をどう言っても、頑なに断っても、意思はかたくてどうにも変わりそうにない。

この方は、どんな些細なことであっても一度決めたことは頑固に遂行するのだわ。

庭を壊すことも、部屋から連れ出すことも。

この、ことも。




“――姫よ、立派な王に望まれるのは光栄なことだ――”



・・・お父様、わかってる。わかってるわ。

でも、私は・・・私の気持ちは・・・。



「でも、私は、ラヴルのことを、あぃ―――っ」


セラヴィから息を飲むような音が聞こえるのと同時に、背中が強く押されてふらついた。

今までになく乱暴な衝撃で、脚がついていかずにセラヴィの胸にすがるような格好になる。

思わぬ出来事に驚いて言葉が途切れ、声も出せない状態でどきどきしていたら、ふんわりとした感覚にすっぽり包まれて後ろ髪を撫でる気配がした。



「貴女は、何を口走るつもりだ。その名は言わせんと言ったはずだ」

「でも、私の――」


言いかけながら体勢を整えて見上げようとすれば、動くな、と低い声で凄まれて顔を胸に押し付けられた。

セラヴィの鼓動が耳に伝わってくる。



「ふむ、分かっていない様だな・・・ひとつ、言っておこう。貴女を我が元に留めるためであれば、私はどこまでも非情になり得る、と」



重低音の声が伝わり体を振動させ、背中に冷たいものが走る。



―――それは、つまり、ラヴルを・・ということ?

ここを消した、あの力で――――でも、そんな、まさか・・・。

ラヴルはルミナのご領主だもの。国にとって大切なお方のはず。

いくら王と言えども、そう簡単には―――


「――そんなことっ」


セラヴィの胸でもがもがとしながらも声を出すと、頭の拘束が緩んだのでここぞとばかりに睨み上げた。


「そんな脅しは」

「出来る。簡単なのだ。脅しではない。私は、本気だ」