魔王に甘いくちづけを【完】

「酷いわ」


肩で息をしつつ唇を噛んで睨み付ける。

ずっと穏やかだった表情は厳しいものに変わっていて、細められた瞳は冷ややかで全く温度を感じない。

冷酷な面。



「貴女を手に入れるためだ。これでもかなり自戒したのだ。もう少し時がかかれば、自ら出向き、かの国を潰しただろう」



潰す・・・?

今、そう言ったの・・・?



記憶がせり上がってきてバル達に重なる。

お父様、エリス、騎士団長・・・。

カフカの優しい人たち。

みんなで平和に暮らしていたのに。

笑顔の皆が血に染まっていく。

緑豊かな景色が闇に塗りつぶされる。


あんなこと・・・あんな酷いことを・・また――――



「ふむ・・狼の王子が、彼らが、恋しいか・・・私は、この指先一つで、その未練の元を断つことも出来る」



どうする、我が力を垣間見るか?この場所など一息になくせる。そう言って唇を歪めて指を立てて見せる。



「っ、貴方はなんて怖ろしいことを言うのですか!」

「失うのは哀しいか?大丈夫だ。このくらいであればすぐに戻せる。何度も、だ」


見ていろ、と指が動いたので咄嗟に動き叫んでいた。


「やめて!そんなの見たくありません!」



後先を考える余裕もない。

セラヴィの手を抱え込んで攻撃の光が出るのを防ぐ。


「く、ぅっ・・・、貴女は、危ないことをする」

「いくら元に戻せたとしても、簡単に壊してはいけないのです。一度壊してしまったら二度と同じ物は返ってこない。同じように作って似たように見えても、全く別な物なんです」

「私ならば、寸分違うことはない。瞬時が嫌であれば、少しずつにしよう。安心して見ていろ」


向かい合っていた体が横に向けられて、見えない膜のようなものに包みこまれる。


・・・違うわ、違う。

そうじゃない、同じじゃないの。

戻らないの、壊してはいけないの・・・。



指先から光が放たれ、木々が草花が、見る間に消え去っていく。

焼けた臭いが風に乗せられて届いてくる。


今まであったものが、さっきまで生きていたものが、こんなに簡単に・・・。

こんな酷いこと―――



「やめて・・・お願い・・・お願い」

「・・・その願い、聞いてやらんこともない。貴女次第だ」


「私が、黒髪の娘だからですか?貴方は魔王なのでしょう。既に、畏怖も力もあるのでしょう。私が妃でなくてもいいはずだわ。それに、私にはご主人様がいるのです。彼の元に戻らなければ・・・・解放して下さい」



妃を娶るとおふれを出せば、国中から色艶やかな女性が集まるのでしょう。

どうして、私にこだわるの。