魔王に甘いくちづけを【完】

数羽の鳥がバタバタと飛び立っていく。

キッと睨み付けると、瞳がうっすらと濡れているのがわかってムカッとする。


―――私は真剣なのに―――


あんな状況だったんだもの。

とても恐ろしかったし哀しかったし勇気がいったわ。

最終的には、命を絶つ覚悟だって、してるんだから。

貴方にとっては突飛かもしれないけれど、私は、至極まともで真面目で懸命に考えたんだもの。

笑われるのなんて心外だわ。



アリに何かあったら、貴方も許さないんだから!

魔王だって知ったって関係ないもの。

この先どんなに脅してきたって、絶対に怯んであげないんだから!

もうっ絶対負けないんだから!



気付けば感情を声に出してぶつけ、厚い胸板を拳でぽかぽか叩いていた。

セラヴィは笑顔を消し、微動だにせずされるがままになっている。

眉間に皺が寄って、だんだん厳しい顔付きになっていくのが見える。

無言の圧力がかけられるけれどそんなの全く気にかからない。



そんな顔して今更怒ったって、絶対に怖がってあげないもの。

怒ってみるといいわ。

それ以上に、私は、怒ってあげるんだから!



昨日から溜まっていた鬱憤が一気に溢れてどうにも止まらない。

疲れてしまって手も痛いのに、叩くのをやめられない。



「妃よ、手が傷む・・もう収めよ。泣くでない」


「妃じゃないわっ。それに、泣いてなんて、いないわっ。私は、怒ってるんです!」



見えない手に頬を撫でられた感触で涙まで流していることに気付くけれども、顔をふるふると横に振ってそれを振り払った。



触れないで。

優しいふり、しないで。

離して。



「静かにせよ。落ち着け。貴女が乱れ続ければ、この場も乱れ始める」

「何言ってるのか、さっぱり分かりませんっ」



叩き続けてる拳が急に動かせなくなり、両手が意に反して上に上がっていく。



―――貴方は、ずるいわ―――



「離して下さい」


「・・・赤くなっている」



セラヴィの手が空を一撫ですると、じんじんと痺れるような痛みが消えた。



「アリという者は、貴女の友人か」

「大切な方たちの一人です。ケルヴェスに、攻撃されました。無防備だったのに。貴方が命じたのでしょう」


「確かに、命じた。邪魔は排除せよ、と。もっと多くの犠牲が出ると思ったが、意外にも少ないことに驚いている」


あの焦燥の中ケルヴェスも随分自重したものだ、と言ってうっすらと笑う。