魔王に甘いくちづけを【完】

「魔王・・・貴方が・・?」


うそ・・・ただの王様ではなくて・・・?

そんな方が、どうして私を―――?

だって、魔王には既に妃がいると思い込んでいたもの。

それに、抱いていたイメージと全く違うわ。

魔王なんて怖ろしい響きの言葉なんだもの、もっと年嵩で体もとても大きくて、口には大きな牙があって、常に瞳は血走ってるような。

そんな恐ろしくてとても近寄れない姿をしてるものだと、勝手にそう思ってた。

どう見ても、ラヴルやバルと同じくらいの年齢に見えるわ。

こんなに若く美しい方が王位を継ぐなんて、信じられない。

もしかして、騙されてるの?

だとしたら、何のために―――――




「ふむ。信じられん。そんな表情だな・・・」



風は止んでいるのに、私の横髪がふわふわと遊ばれるように揺れる。

セラヴィの腕が体を包むように回り込んで、背中と腕に柔らかな圧迫を感じた。


見れば見るほどに感じる穏やかな雰囲気と、優しげな表情。

輝く漆黒の瞳をじっと見つめていると、体がほわほわと浮游するような感覚に陥り、だんだん心地好くなってきた。

次第に頭もぽやぽやとして視界も霞み、思考力が衰えていく。



「私は・・・貴方のことを、謀反を企む悪漢だと・・・そう、思ってました。違うのですか・・・」



半ば夢心地でぼーっとしながらも顔を見つめて、呟くような小さな声で言うと、セラヴィはプッと噴き出した。

横を向いてしまい、口を隠して肩を揺らす姿は、威厳なんて欠片も感じない。

さも可笑しそうに笑う。


・・・本当に、この方は魔王なのかしら・・・。

今まで接してきた方たちと、何も変わらない。

どこも・・・。



「私が悪漢とは、随分おかしなことを考えるものだ」



くっくっくと喉の奥で笑いながらも此方に向き直ると、体を包む圧迫感が一層増したように感じた。

徐々にセラヴィの胸が近づいてくる。


・・・これは、まさか・・引き寄せられてるの・・・?


ぼやぁとしながらも、なんとか体を離そうと力を込めてみる。

そうしているうちに、霞みがかっていた頭が徐々にすっきりとしていくのを感じた。



「このように笑うは随分久しい。まこと、愉快だ。・・・む、・・まだ抵抗するか。全く、情が強い」



―――愉快・・・―――


この言葉に、心がチリッと反応した。

言いようのない感情が押し上がってくる。



「おかしくありません!」



気の赴くまま、体に残る霞みを払拭するようにお腹から声を出すと、すみわたる空気にのって広範囲に凛と響いた。