魔王に甘いくちづけを【完】

私のために・・・セラヴィが、ここを―――?

差し出された腕を見つめて一瞬迷ったけれど、素直に手を乗せた。



「貴女の思うままに行けばいい」

「・・はい」



足の向くままに進み始めれば、堅い感触だった地面が柔らかな草のものに変わった。

緩やかな風が髪を撫でていき、可愛らしい草花が咲く中を白や黄色の羽をもつ可憐な蝶がふわふわと飛び回る。

蜜を集める羽虫が花弁の中を這いまわっては飛び立ち、小さな羽音を立てて別の花弁に移っていく。

済んだ青い空、背の高い木々に囲まれ生い茂る草の中に、可憐な花の色が点々と混じる。

どこかに川があるのだろうか、水の流れるような音も微かに聞こえてくる。

風の香りを嗅げば、葉の青さと花の甘さが程よく混じっていてなんとも心地よく、胸一杯に吸い込んだ。


こんなに気分がいいのは初めてかもしれない。


“美しく整えてある”


確か、セラヴィはそう言ってたはず。

整備した、という意味かと思っていたけれど、これは何の手も加えられていない自然そのままに思える。

散策用の道もないし、余分な草も刈られていない。

それに、なんとなく、記憶の中で見た景色に似てるような。

あの男の子と会ったセリンドルの森の草原に・・・。

気のせいかしら。




「どうだ、気に入ったか?」


上から声が降ってきてハッとして見上げる。


・・・そういえば、この方が、隣にセラヴィがいたんだっけ・・・。


歩いてる間中ずっと存在を感じなかった。

というか、圧迫感というか、ストレスを感じなかったのだ。

腕に手を預けているというのに、一度も引張られることなくスムーズに歩いていられた。

急に方向転換したりしたのに、まったく、何も―――――



「・・・とても、美しい場所です。心が穏やかになるわ。本当に貴方が作ったのですか?」

「無論、そうだ。私以外、ここまで精巧に作れる者はいない」



精巧に、作る、というのは・・・。

言ってることがよくわからなくて、まじまじと見つめてしまう。



「貴女が気分が良いと我が心も穏やかになる。良いものだな・・・」


腰に何かがふわりと近付いた気配がしたと同時にぐっと押され、よろけるように動けば、横に並んでいたのがいつの間にか向かい合わせになっていた。

柔らかな光を宿した漆黒の瞳が真っ直ぐに向けられている。



「一から作ったわけではない。だが、貴女のためと、これでも随分苦労したのだ。少しは評価が上がったか」


「貴方は・・・何者、なのですか・・・?」


「・・・我が名はセラヴィ・ディオ・ロヴェルト・ロゥヴェル。この国の王であり、この世界を創造し護る、魔王だ」