魔王に甘いくちづけを【完】

―――ゆいいつ―――

意味は、ただ一つ。

たったひとつだけ、この部屋が、今までいたあの空間につながってるということよね・・・。

おまけに、不思議な力がないとあのドアが出ないように見えた。

だから、基本的にはこの方しか出入り出来ないということで・・・あの場所はこの方専用ということで・・・。

つまり、全く、逃げる隙がない――――


あわよくば、と考えていた計画がもろくも崩れ落ちていく。

まさか、本当にここにしか出入り口はないと言うの?


侍女たちも出入りするのだからそんなはずはない。他にもあるはず。

そう思いながらも衝撃を抑えきれず、一気に力が抜けてしまって全面的に体を預けたら、セラヴィの歩みがぴたり止まった。


今までふんわりと感じていた腕の感触が急に強まり、ぎゅぅと締めつけられる。

ぱちん、とアクセサリーが外れる音のあとに纏め髪がぱさりと背中にこぼれ、香りを嗅ぐ気配がした。

さらさらと髪を梳く感触がして完全に解れたころにリップ音が耳に届く。



「私は、こちらの方が好みだ。庭は美しく整えてある。貴女は気に入る筈だ」



廊下に出れば、従者らしき身なりで四人ほどが腰を低くして控えてるのが見えた。


「皆は、ついてくるな」

「は?」


ぱっと顔を上げた従者たちの驚き戸惑う表情と「お待ちください!」と叫ぶ声を最後に視界が黒く染まる。

漆黒の闇。

試しにひらひらと動かしてみた手も、すぐそこにあるはずのセラヴィの体も、一ミリ先も何も見えなくて、闇の中に体が溶け込んでしまったかのよう。

恐ろしくなって目を瞑っていると、「もう手を離していいぞ」と言われたのと同時に堅い地面が足に当たったのを感じて、目的の場所に到着したことを知った。


遠くの方から鳥のさえずりが聞こえてくる。

頬にはあたたかな風を感じる。

ゆっくり目を開ければ、目映いほどの光がしみて何度も瞬きを繰り返した。



―――ここが、庭―――


この世界に来て庭と呼ぶものをじっくり見たのは、ルミナの屋敷とラッツィオの城だけ。

ライキの個性的なものと、王妃さまのところにあった美しいもの。

どちらも花や木が色どりよく植えられていて、目に麗しいものだった。


けれど、ここは――――



「これは・・庭、なのですか?」


「私が、貴女のために作った景色。つまり、庭だ。手をここへ。貴女のペースに合わせ、ゆっくり散策する」