魔王に甘いくちづけを【完】

満足そうな色を含んだその声にハッと気付くと、セラヴィに抱き抱えられていて、スタスタと部屋の中を横切っていた。

ふわふわ浮いていた毛布が、見えない何かにきっちりと折り畳まれていくのが向こうに見える。

それがベッドの上に運ばれていき乱れたシーツが整えられる光景は、まるでそこに透明な侍女がいるかのよう。

とても鮮やかな仕事ぶりに感心してしまう。


―――あれは、セラヴィがしているのよね?

見かけによらず几帳面なのかも・・・。

だけど、とても便利な力だわ。

この方には、侍女なんて要らないんじゃないかしら・・・。

何でも一人でしてしまいそう。


っと。今は、そんなことを考えてる場合じゃないわ―――


気を取り直して、さっき起こったことを今朝の出来事から順番に整理して考える。

すると、どう考えてもしっかり罠にかけられた気がした。

何故なのかはよくわからないけれど、セラヴィから私には触れられないみたい。

だから、どれだけ唇が近づこうと、放っておけば良かったんだわ。



「あの―――」

「黙れ。いいからそのまましっかりと掴まっていろ。少し急ぐ」


勝手に開いたドアの両側には予想していた通りに衛兵が立っていた。


窓も何もない廊下。

壁に取り付けられた灯りが足元を照らすのみで結構薄暗い。

ドアらしきものもなく、さっきまでいたところが、この階唯一のお部屋みたい。

結構な速度で歩いてるようなのに、ちっとも階段が見えて来ないのは何故なのかしら。

何もないただの壁が延々と続く。

やがて突き当たった壁にセラヴィが軽く掌を当てると、立派な彫刻の施された飴色のドアが浮き出てきた。

こんなところ、衛兵や侍女はどうやって出入りしてるのかと疑問に思っていると、いつの間にやら豪華な部屋の中にいた。

今、ドアを開けなかった気がする。

ドアがあるべき方向、歩いてきた背後を振り返り見ても、何の変てつもない壁があるだけ。

あまりにも不思議なことが起こりすぎて、頭の中に浮かぶ疑問符も在庫が尽きてしまってもはや吐息しかこぼれない。


・・・それにしても、とても広い部屋。

さっと見廻しただけで、天井まで届くほどの大きな窓に立派な天蓋付きのベッド、ひじ掛けの椅子と数々の調度品が目に入る。

ここは――――

「ここは私の寝室であり、貴女のところに繋がる唯一の部屋だ」

「・・・え?」


思わず自らの耳を疑いつつ、すでに容量超過した頭の中でその言葉を反復する。