魔王に甘いくちづけを【完】

全身だなんて!

考えれば考えるほどにムカムカしてくる。

優しげな雰囲気だったけれど、本性はまだ分からない。

何と言ってもケルヴェスの例があるもの。

あんなに穏やかな顔してるのに、することはとても残虐だった。

無意識に唇を噛む。

今度顔を合わせたら、あのとき言いそびれた文句を必ず言ってあげるわ。

それでも気はすまないのはわかってる。

本当は、頬を思い切り叩きたいくらいなんだから。

あの方だけは、どんなに謝ったとしても、絶対に、許さないんだから!


意識を失う寸前に見た嬉しげににやりと笑う表情を思い出せば、更に怒りが増してくる。

行き場のない感情を発散するように、てのひらが自らの膝をペシペシと叩き始める。

すると、頭の後ろからおずおずと訊ねる声が聞こえてきた。



「あの、どうか・・なさいましたか?できれば、動かないで頂きたいのですが・・・」

「あ・・ごめんなさい。何でもないの、気にしないで」



怒りを懸命に抑え込んで侍女を見れば、結い上げた髪にアクセサリーをつけるところだった。


・・っ、そういえば。


「あの、貴女は何処にあるのか知りませんか?私が身に着けていたもの。中に、とても大切なものがあるんです。失っては、困るわ」


そう尋ねたら、鏡の向こうの表情は訝しげなものになった。


「身につけていらしたものですか?―――昨夜にお世話した者は何も申しませんでしたか?」

「あ・・・えぇ、何も・・・」

「・・・普段どおりの処理であればドレスは洗濯に。アクセサリーは洗浄に出してると思われます。昨夜お世話した侍女に聞いておきましょう。ですが、ご心配なさらなくても明日には戻ってきますわ」


・・・お手入れ中。

それなら、良かった・・・。


ホッと胸をなでおろしていると、身支度を整え終わりテキパキと片付けを済ませた侍女が「では、すぐに朝食をお持ちいたします」と言って出ていった。

その開けられたドアの向こうに、衛兵のものらしき腕が動くのが見える。

常にドアの脇に立っているみたい。

聞こえた声から判断するに、もう片側にも立ってるはずだわ。

やっぱり城の警備の仕方は、どこもあまり変わらないのね。


ということは・・・。

これは、夜も同じなのかしら。

警備のこと、城の間取り、しっかり調べる必要があるわ。

まだ諦めてはダメ。

気弱になってはいけないわ。

少しでも可能性があるのなら、逃げる方法を考えた方がいいもの。



侍女と入れ替わるようにガラガラとワゴンが入ってくる。

食事を運んできたヒトに笑顔を向けて話しかけた。


「おはようございます」


まずは、この方から――――