魔王に甘いくちづけを【完】

差し出されるまま手に持てば、全部上質な出来で布はすべすべと肌触りよくとても軽い。

装飾も少なくシンプルなデザインは多分セラヴィの趣味なのだろう。

どれも黒髪に似合う綺麗な色のものばかり。


・・・本当は、着てたドレスが一番いいけど。

この格好だもの、そうも言っていられないわね・・・。


「そうね、迷うけれど―――」


ふと、クローゼットの中にある瑠璃色のドレスが目に入って、城宮の美しい屋根を思い出して切なくなってしまった。

優しく強い狼族。

最後まで私を守ろうとしてくれた。


―――アリ・・・―――

ジークは間に合ったかしら。

バルは、騎士団の皆は、無事城に戻れたかしら。

リリィは今どうしてる?

危険なことなんて考えてないといいけど―――

不安が胸を過る。何だか思い切ったことをしそうで。

ザキがついてるから、大丈夫、よね・・・?



「・・これがいいわ」


クローゼットの中を指差せば、侍女の表情が一瞬曇って

「これはイヴニングドレスですわ」

と言って、困ったように微笑んだ。



「あれは今夜お召しいただくと致しまして・・・今は――これは、いかがです?」


にっこり笑って手に持っていた数着の中から紅色のドレスを差し出したので、それでいいわと頷いて見せた。




「・・・昨夜は、よく眠れましたか?」


鏡越しに聞いてくる侍女の表情は、今までのにこやかさが陰って少し慎重に見える。

聞くように言われてるのかもしれない。

髪を整えながらも忙しなくチラチラ見る様は、こちらの表情の変化を読み取るかのよう。

セラヴィがベッドにいたこと、知ってるのかしら。

この娘たちにとって、私は何の前触れもなく突然現れたのだもの、興味深いだろうし不思議に思うのは当然のことだわ。



「えぇ、とてもよく眠れました」


そう。

ケルヴェスのおかげで。

哀しむ間もなく、ぐっすりと。

おまけに幸か不幸か身ぐるみ剥がれた羞恥心も感じることなく。

と。寝起きに起きた一部始終をありありと思い出してしまい、今度は無性に腹がたってきた。



毛布越しとはいえ、女性の抵抗を奪って自由自在に体を撫でまわすなんて、とても卑劣だわ。

儀式なのかどうかは知らないけれど、全く失礼極まりない行為。

例え王子様であっても了承を得るべきだわ。

それが、常識というものよ。

バルは惜しげもなく愛情を表現してきたけれど、最低限私の心を優先してくれた。

ご主人様なラヴルだって、あのとき動きを奪ったのは腕だけだった。

なのに、あの方は。