魔王に甘いくちづけを【完】

「待って。宝石を狙う只の賊が、貴方にこんな傷を付けることが出来るというの?うそを言わないで。お願い本当のことを言って」


「・・これですか。たまたま強いのがいました。油断していただけです。かすり傷で大したことはありません。・・貴女様の私の評価は意外にも高いのですね。驚きました。確かに特技はありますが、日頃から訓練を積む近衛騎士団の連中には敵いません」



いつもの表情が崩れて薄く笑う。

それは、自嘲ぎみなものに見えた。


「でも、貴方はバルに信頼されてるわ。私が強いと思うのは当然でしょう」



馬車を降りようとする背中に投げ掛けると、ピタリと止まって振り返った。

傷が痛むのか、こちらに向けられた瞳が潤んでるように見える。



「この私が貴女様を任されているのは、誰よりも」

「そういえば、アリ殿は怪我をしてましたな。早く診せて下さい」



急に野太い声が馬車の中に響き渡り、アリの言いかけたことが遮られてしまった。

先を問いかけようとしても、ジークが顔をしかめて腕を診ながらしゃべるので、きっかけがつかめずそのままになる。



「アリ殿、この傷は爪ではありませんな」

「はい、狡猾にも相手は剣を隠し持っていました」

「成る程そうですか。アリ殿ともあろう方が珍しいですな?」

「ジーク殿までその様なことを言うのですか。参りましたね、買いかぶりすぎです。あぁ、この程度の傷、応急処置で構いません。それよりも、早く行かなければ――――」



本人の強い希望で軽く包帯を巻いただけで済んだ治療。

外に出ていったアリが馭者台に座り、ジークが隣に座ったのを見計らったように馬車が動き始める。


右側に建物を見ながら進んでいけば、少しは裏手の様子が見えるはず。

窓の外に注意を払っていると、騎士団と黒服を着込んだ賊が闘ってる様子が見えた。

剣を振り合い闘ってる後方で、金色の気を放ちながら指示を飛ばしているバルが目に入る。

アリのいう通り本当に大したことはなさそうに見えて、ホッと胸を撫で下ろした。


木に隠れるまで見守ったあとに椅子に落ち着くと、ふと指の違和感に気が付いた。

あの指輪をしたままに来てしまっている。

ニッコリ笑うマーズの顔を思い出し、なんとも気まずい気持ちになった。

これは、返さないといけないわ。



「ジーク、大変だわ。私指輪をしたままで来ちゃったわ」

「あぁそりゃ、大丈夫だ。バルさまがっ――――っ」


ジークの方を向いて指を見せてると、ガクン!と大きく馬車が跳ねあがり体も大きく跳ね上がった。

何を言ってるのか分からないけれどアリの叫び声が聞こえる。