魔王に甘いくちづけを【完】

「外に行かせて」

「そいつは駄目だ。俺には、お前をここに留めておく責任があるからな。悪いが大人しくしててくれ」



頑なに留められれば、外に出るのは危険だと言われてるのも同じと感じる。

一体何が来ているの。



「さぁ、王子様をお待ちしている間に石を選びましょう。きっとすぐに戻られますよ。これなどいかがですか?先ほどのオラペルトに似ております」



マーズの手に指輪が乗せられている。

石は楕円で白く、灯りにかざすと表面が水色に輝いた。



「これは光の加減で水色になったり黄色になったり橙色になったり致します。オラペルトよりも変化する色の数は落ちますが、神秘的だと女性に人気のある物なのですよ」



どうぞ指に嵌めてみて下さい、と手慣れた手つきでスーと嵌めこまれる。


「えぇ、とても素敵ね・・・綺麗だわ」


目は指輪を見ているけれど、心は外に向けられていた。

落ち着かないままに交わす会話は定石通りの言葉しか出て来ず、いつの間にか、今嵌めてる指輪が気に入ったことになってしまっていた。

にこにこと笑顔を向けてくれるマーズをぼんやりと見ていると

突然横にアリが現れて「失礼!」と言って沈み込んだかと思えば体が宙に浮かんだ。


全くの神出鬼没さ。

前触れくらいあればいいのに。


どっきりとする間もなく起きたことに抗議の声をあげると、いつもと変わらない冷静な声が返ってきた。



「ご心配なく。安全にお連れする為だと許可を頂いています。ジーク殿、共に城に戻れとの命が下りました。行きますよ」


「アリ殿、承知しました」


「アリ、戻るってどういうことなの?・・バルは戻らないの?外で何が起こってるの」


「王子様には、只今陣頭指揮を取っておられます。マーズ殿、ここの馬車はありますか。あれば拝借したい。これは王子命令です」



―――陣頭指揮って・・つまりそれは、闘ってるってことよね・・


でもどんなに外の様子を探ってみても、私の耳は物音も声も拾わない。

建物の中にいるからかしら。

それとも誰にも聞こえない程の、静かな闘いなのか。