魔王に甘いくちづけを【完】

小指の先ほどのこれよりも小さい。

しかも見せられない程なんて、砂粒くらいのものかしら。


「それでいい、是非とも見たい」



「ですが・・・それは・・見る価値もなく」


口ごもりながら、手と瞳を宙に彷徨わせおろおろとするマーズ。

好奇心が押さえられないのか「それで良いから」とずんずん詰め寄っていくバル。

笑顔を見せてるとはいえ、静かに立ってるだけで王子様の風格を出して威厳をふり撒いてるのに、あんな風に迫られたら接し慣れてない一般の方は堪らないはず。

マーズが気の毒になり、我儘王子様を宥めるべく前に進み出て声をかけた。



「バル、無理を言ってはいけないわ。立派な王子様は、決してか弱い女性を困らせないものよ。マーズ、これをお返しするわ・・見せてくれてありがとう」



バルとマーズの間に入り込んで、微笑みながらオラペルトを少し震えてる手に乗せると、ホッとしたような笑顔を見せてくれた。

振り返れば「すまん・・つい、な・・」と言いながら頭を掻く姿が目に映る。



「バル、私、お店の方に行ってみたいわ。案内して頂きましょう。ね?」



―――オラペルト・・・か。

出来ればこれが欲しい。

けれど、これひとつしかない貴重なものだなんて、我儘言えないわ。



「では、お店の方へご案内いたします。此方へどうぞ」


案内に従って行ったお店の中は、少し薄暗く感じた。

さっきまでいたところが明るかったせいかも、と思ったけれど全体を見廻せば壁もドアも黒く塗りつぶされてて窓もない。

所々にある灯りも最低限に絞られている。

そんな中に、ショーケースだけが島のように浮かび上がって見えた。

覗き込めば、それぞれの石が個性豊かに光り輝いてみえる。



オラペルトに似た石はないかと探しながらゆっくりショーケースをまわる。

と、隣から手と口がうるさいほどに出されて、たじろいでしまった。

「あれはどうだ?」とか「これ見せてくれ」とか、まるでバルの方が楽しんでるよう。


「バルの方が初めて外出したヒトみたいになってるわよ?」

「あぁ、初めてのようなものだぞ。こんなに楽しい気分で城下にいるとは、普段ならば考えられん。今の私には、リリィの買い物に付き合ったザキの気持ちがよく分かる」