魔王に甘いくちづけを【完】

白フクロウがイライラと羽ばたきをし続けながら気にかけてる当のお方、ユリアは今――


マーズから手渡された小さな石をじっくり眺めて堪能していた。


てのひらの上にある様はまさにあのときの妖精の種のよう。

指先でつんと弾いて転がしてみる。

丸っこくて角のないそれは、灯りに照らされてキラキラと虹色に輝いた。

記憶の中で見た光景にあまりにも酷似していて、懐かしくて切なくてでも何だか嬉しくて、なんとも不思議な気持ちになる。

心が自然に幼い頃に戻っていた。



――――あのあと・・・男の子と別れた私は―――・・・


落とさないよう大切に種を握り締め

キョロキョロしながら森の中を歩いてる。


“えっ・・と・・やっぱりここがいいかな。ここなら、だれにもふまれないし、みつからないもんね”



座り込み、小さな手が土を掘る。

道具も何もなくて、木切れを使って懸命に掘ってる。

やがて出来た小さな穴にコロンと入れた白い種。

そぉっと、丁寧に土をかぶせて飽きることなくずっとそこを見ていた。



“あの子は、ほうっておけばいいって、いってたよね・・”



素直に待ち続ける。

でもいくら眺めていても何の変化も起こらない。

湿っていた盛り土の表面が乾いていく様が見えるだけ。



“まだかな。はやくめがでないかな・・・そうだ!そういえば、おばばさまにきいたことがある!おはなは、おみずをあげないとだめなんだって”



おみずをあげなくちゃ。

はやく、きれいなはながさくといいな。



弾む足取りでわくわくしながら川まで行き、お水をすくっては、せっせとこぼして――――




そうか。

種をうえた場所は家の近くの川のそばだわ。

誰にもとられないように踏まれないようにって、一生懸命に考えて木の間にしたんだ。

固い土を時間かけて掘って。

てのひらに掬った水はかける前に大半こぼれてしまって、何度も往復して・・・。



遠い遠いカフカの地のセリンドルの森の中。

幼い私と約束してくれたあの不思議な男の子。

これを持っていれば、あの子の名前だけでも思い出せるかしら。

そもそも、幼い私が名を訊ねたのかどうかもあやしいけれど・・・。




「それが気に入ったのか?随分と小さな石だな」

「この小ささがいいの。お花の種みたいでしょう?とても可愛いわ」

「うむ、そうだな。確かに珍しい・・私も知らない物だ。マーズ、これは何という?」

「王子様、報告書はつい先日に差し上げたばかりですので、ご存知ないのは当然のことで御座います。それは、オラぺルトですわ。ごく最近に発見した大変貴重なものなのです。現在その大きさが最大のもので、まだ店にも並べられておりません」


「ふむ、そうか―――だが、加工前のものならあるだろう。見せてくれ」

「御座いますが・・・あまりにも小さいものですから、とてもお見せできるようなものでは・・・」