魔王に甘いくちづけを【完】

「あー、元気だぞ。真夜中に目覚めてお前の元に帰せと、ぴぃぴぃうるさかった。リリィがいなきゃ大変な目にあうとこだったな。渋るザキをなだめて強引に俺の部屋に泊めて正解だったぞ」


やれやれといった風情でジークは首を横にふる。

良かった。リリィが元気だったのは、無理してたんじゃなかったのね。


「リリィの寝不足の原因は、看病ではなかったのね?」

「あぁ、言っただろう。看病するほどの重体じゃぁない。回復はめざましく早いぞ。お前も見りゃ驚く。出掛けると知って、ピィピィ鳴いて一緒に来たがったのを無理矢理眠らせて来たが―――・・」


「ジーク、済んだら交替だ」

「はい、バル様、今出ます。お待ち下さい―――あー、兎に角、だ。心配するな、奴らは丈夫だから」

「そう、なの。良かった・・ありがとう」



分かってたことだけど・・・やっぱり、ただの白フクロウさんじゃないのね。

仲良しさんであり、リリィの言葉が通じる白フクロウさん。

あのとき動揺しながら呟いた言葉。

“おじ・・ま”聞き取りにくかったけれど、確かにそう言っていた。

思い当たるお方は、一人いる・・・。



馬車を降りたジークに小声で礼を言ったバルが入ってきて、手を差し出した。


「さぁ妃候補殿。目的地に到着した。降りるぞ。手を此方に」

「・・・はい」



ここは、どこなのかしら。

かなりの田舎で家らしきものが一軒も見えない。

ここは、どこ?と聞くのも無粋な気がする。


初の城下。

初めての一歩。

緊張しながら慎重に馬車からおりる。

感慨深く地に足をつければ、水に濡れた地面のやわらかな感触が伝わってきた。

地に足をつけられるのは素晴らしいことだと実感する。


周りを見渡せば、窪地になったような土地が広がる。

むき出しの地面が所々掘り起こされていて、あちこちに土の山が出来ていた。

斜面の方には横穴がたくさんある。

ここは、中心地ではなくて・・・・最前線?



「今日は悪天候だったから作業自体はしていない。だが、建物の中は稼働中だ。行くぞ」



お前は此方を歩けと板が渡された道に誘導される。

私に合わせてゆっくりと歩いてくれるバルは、馬車に乗る時とはまるで別人のよう。

もしや、雨が上がったからかしら?と考えて、やっぱり天候はヒトの心に影響するのだと思った。

雨も落ち着いた気分になっていいものだと思ったけれど、晴れた今は、心も体も清々しく感じて、もっと素敵な気分になってる。

バルも、不機嫌極まりなかったアリも、きっと私と同じ気持になってるはず。



騎士団や衛兵達が取り囲む中を歩いて行く。

アリとジークは少し離れた位置で付かず離れずについてきていた。