魔王に甘いくちづけを【完】

「俺は、どちらでもいいぞ。うむ、一緒にアリの講義を受けるのも悪くないな」


アリの仕事ぶりも確認出来るし、昼も夜もお前とここで食事をするのも悪くない。とにんまりと笑う。

一日一緒なのは出掛けても同じことだろうけど、部屋の中と外出先ではまるで状況が違う。



「黙ってるのは、肯定ととらえる。天候に対して異論がないなら、連れて行くぞ。ただし―――・・」








・・・――――バサッ!



空気を孕み派手な音をさせて朱色の布が花開いた。

アリが早く入れと言わんばかりにこちらを睨みつけてる。

暗い空に明るく映えるそれは、ヒトが何人入れるのか検証したいくらいの大きさをしていて持ち柄も太く、さぞかし重いだろうに平然と涼しげな顔をしているのが何だかしゃくにさわる。


結局、有無を言わせないバルの技法にあい、出掛けることになった。

所々に出来た水溜まりを避けるよう、はしたなくならない程度にドレスを摘まみあげる。

靴を気遣いながら入り込んだ傘の下は、外よりも冷たい気に満ちていた。



ここはバルの城宮の玄関。

馬車が置かれてるところまでは少しの間歩くことになる。

前を行く衛兵の背中を追いかけ、後ろから漂ってくる不機嫌な気を意識しないよう努力する。

同じ不機嫌さでもザキのそれとは全く異質なもので、背中に氷をあてがわれたように感じるのだ。

居心地が悪いことこの上ない。




「私としては、同行するなど非常に大変不本意な訳ですが。貴女様には理由がお分かりでしょう」



パシャパシャと水を含む足音と傘に雨が当たるパタパタ音に混じり、むっすりとした低音が斜め後ろから聞こえてくる。


「加えてこの天候です。貴女様も愉しさが半減するでしょう。お断り頂けば良かったのです」



急に予定が変わったのはアリも同じなのだ。

几帳面に立てた自身の計画を崩され、急な指示に衛兵の手配からルートの確認まで朝から忙しい思いをさせられていた。

おかげですこぶる機嫌が悪い。

本人は無意識だが、ユリアに冷たい気を全開にして放っていた。

更に雨による気温の低さも手伝って、どんどこ冷えてく体は震えて感覚が無くなり足元がおぼつかない。

濡れた石畳に脚をとられないよう懸命になる。

もっと厚着をさせてもらえば良かったと後悔しながら脚を前に進める。



「あぁ、先に申し上げておきます・・・そこの黒い石の道は滑ります。お気を付け下さい」

「はい、気を付ける・・わっ」



言われたそばから斜めになってる石に踵を取られ、ツルンと滑って体が宙に浮いてしまう。

手をばたつかせてもどうにもならず体はどんどん地面に向かっていく。

支えを期待できる腕は、傘を持つため両方塞がっている。