魔王に甘いくちづけを【完】

さぁこちらへ、とサササと姿見の前に連れていかれ

「普段に増してお綺麗です!これならば大変満足して頂けますわ」

「えぇ、きっとお気に召されるでしょう」

にっこりと微笑む顔が両側から覗き込む。


「ありがとう」


貴女たち、何だか普段と様子が違うのね?という言葉は飲み込んでおいた。

鏡には、夜会以来久々に豪華に仕上げられた自分の姿。

着けられたアクセサリーの質も数も全く違う。


特別に着飾る理由。

室長からは何の予定も聞いてない。


で、満足してもらえるっていうのは?

いつも真っ直ぐに向けられるブラウンの瞳が思い浮かぶ。

まさか・・・ね。

あの告白以来毎日欠かさず会ってるのに、今更満足も何もないでしょう。

他のお方に違いない。

例えば王妃さまがお茶会に呼んで下さるとか、王さまが興味本位で御話し相手に呼ばれるとか。

と、いろんな『とか』を思い浮かべていたら。

まさか、は本当で――――






「綺麗だな。このまま独り占めしたくなる」



と、朝食後予定外にも来たバルがそう言ってブラウンの目を細めた。

目にもとまらぬ速さで腰に手を回されぐぃっと体を寄せられる。

しっかりと固定された体は押しても引いてもビクともしない。

今日は、離してくれる気はまるで無さそう。



「妃候補殿、随分と戸惑ってるようだが。急ですまないな。今日は一緒に出掛けるつもりで準備をさせた。だが、ご覧の通り生憎と雨が降ってる。ラッツィオの雨は一日中降り続けることはないが・・・」



うむ、この感じたと長くてあと半時程度だな、とバルは窓の外を見る。

風もなく静かにシトシトと降り続ける雨。

遠くまで広がる雲は分厚く墨色をしてて、明るさは微塵も感じられない。



「・・・俺としては、お前を笑顔にしたいわけだ。嫌なら行かない。どうしたい?」



“急に行くぞって言うかもね”


リリィすごいわ、貴女の言う通りね。

どうしたい、と聞かれれば出掛けるのは嬉しいと答えたい。


けど。

白フクロウさんのことも気になるし、バルが無理してるならとても困る。

それにこんな日に出かければ、衛兵たちはずぶぬれになってしまう。

遊びに出かけるのなら、天候がいいことにこしたことはない。



「あの、バルは急に外出しても構わないの?仕事は?」

「この雨だろう、相手先が来られなく予定していたことが中止になったんだ。勿論、普段の仕事も調整して一日あけた。だから拒否されると却って暇になり、俺は非常に困るわけだ。ここに入り浸ることになるぞ」

「は?一日中ここに?」