魔王に甘いくちづけを【完】

「ラッツィオだと違うのかなぁ。バルさんは天候の管理とか何もしてないみたいだよね。一度聞いてみ・・・ぁ、ぃっけない、またたくさんお喋りしちゃった。もぉ~さっき注意されたとこなのにっ。ユリアさん、また夜に来るねっ」

「えぇ・・・いってらっしゃい。あの、リリィ?」

「なぁに?ユリアさん」


焦った顔で今にも駆けだしそうな体勢のまま振り返る。


「ぁ・・・お仕事と勉強、頑張ってね」


はいっ、いってきまーす!と弾ける笑顔で明るく叫び、ふわふわな赤毛を揺らしながらぱたぱたと駆けていく背中を見送り、ため息をつく。

変わらなく元気にも見えたけど、昨日の様子を思い返せば無理してるようだとも感じる。

いつも元気を貰ってるから今くらいはと考えるけど。

私って本当にダメだ、なんて押しが弱いのかしら。

話を聞き出すことも出来ないなんて。


気と力の抜けた体を天蓋の柱で支える。



・・・でも、お喋りなリリィの勢いに敵うお方って誰がいるというの・・・

と、考えたとたんにバルとアリの顔が順々に思い浮かんだ。

いつも黙らされるひとたち。

私も、あれくらいの有無を言わせない迫力を身につけなくては。



「ユリア様、おはようございます。本日は珍しく天候が悪うございますわ」

「おはよう、みんな。あら、雨もたまにはいいものよ?」



リリィを見送ったあと、少し残念そうに顔を歪めて入ってきた身支度侍女二人。

窓の外をちらっと見てそっと首を横に振ってる。



「普段ならば私達もそう思いますわ。でも・・・―――本日は、少し厚めのドレスをお召し下さいませ。さ、こちらをどうぞ」

「普段ならば―――」



って、どういうこと?と訊ねようとして、口をつぐんだ。


そうだった。

この子達はお喋りしてくれないのだった。

ひたすらお喋りするリリィの賑やかさと一転し、部屋の中がメイク道具と衣擦れの音しかしなくなる。

白フクロウさんがいたときは、たまに羽ばたいたりしててそれなりに賑やかだったけれど。



ふと天蓋の上を見やる。

あの子がいないと、やっぱり寂しい。

正体が何であろうと構わないわ。

私の可愛いペットなんだもの、早く元気になって欲しい。

いつ頃あそこに戻るのか、眠りから覚めたのか。

リリィに聞けなかったイロイロは必ずジークに話して貰おうと決め、いつも通り大人しく侍女たちに身を任せた。



暫くして忙しなく動いていた細い指たちが止まり、目の前の真剣な顔付きが和ぐ。

フゥ・・と満足げな息を吐いた唇が、綺麗な微笑みを作った。