魔王に甘いくちづけを【完】

その籠を抱えた大きな手の主は、帰宅してすぐに2個を抜き取り出迎えの者に残りをどさりと手渡した。



「土産だ、好きにして良いぞ」



そう言えば、黄色い声が上がった。

現金にも、これだから貴方様が大好きなんですぅ、なんて甘えた声まで聞こえてくる。

毎回何かしら土産を買ってくるが、この反応。

それほどに皆コレが好きなのだな。



・・・さて、これが出たとなると・・・あの件と一緒に報告せねばな。

階段を上がり見慣れたドアを目指す。

・・・っと、今はもしやお取り込み中か?



部屋の前に来れば、ギシギシと軋む音と一緒に甘くみだらな女の声が聞こえてくる。

最近ご執心のあの女中か、それとも新しい女か。

これは暫くかかるか?

始まったばかりかと思えば、一旦自室に戻り出直そうと考える。

脚を自室に向けると、達した様な女の声のあと音が止み『そこにいるのは、ジンか?入れ』と、ありがたくも迷惑な声がかけられた。



勘弁してくれ、老いたとはいえ私も男なのだ。

女が出てってから呼んでくれと言いたいが、その様なことはとても言えない。

躊躇しながらも一応ドアをノックし「失礼致します」と目を伏せつつゆっくりと部屋に入る。



しーんとしてるのが気になり目を上げれば、当主はくったりと横になった女中の首に顔を埋めているところだった。

全体的に薔薇色に染まった肌は美しく艶めき恍惚に震えている。

ったく、済んでから呼べばいいものをと思うが、このお方は昔からこんな性格だから仕方がない。



「よし・・・暫くここで休め」


眠りに落ちていく女中の頬をそっと撫でて額に唇を落とし毛布をかけ、主はガウンを羽織ってベッドから降りてきた。



「ジン、待たせたな」

「ゾルグ様、只今戻りまして御座います」

「何か匂うな・・・」

「お気づきですか。流石はゾルグ様で御座います。コレが市場で売られておりました」

「これは・・・ラシュ、か!?」


手渡せば目を瞠り崩れるようにソファに身を沈めた。



「左様で御座います。別名、警告の実。破滅の実とも・・・。今は廃れた名で御座いますが、耳に心地いいものではありませんな」



主は額に手をあてがい、深い思考に入り込んだ様子。

創始の史実を紐解けば、国土が闇に浸食されたと記されている。

街の者は気付いてる様子は皆無だったが、現象が進めばそのうち騒ぎ始めるだろう。



「貴様は、今生るのは不自然だと考えるか?」

「はい、周期で申し上げれば、再来年の筈」

「ふむ。やはりか・・・コレが生ったとなれば―――」

「はい、ゾルグ様。最悪を考えれば、国土が失われつつあるかと存じます」

「・・・奴は、気付いているだろうな。急がねばならん。ジン、今一度あちらに向かえ。だが、その前に報告をしろ」


「は、畏まりまして御座います。・・・彼の地では―――」