魔王に甘いくちづけを【完】

ズズズズ・・・ンと、低音を響かせ地面に稲妻のような亀裂がピッと走る。

徐々に間を広げていくそれは、地面をぱっくりと分けてしまい、それの周りに光のないブラックホールのような真闇がさーと広がった。

木々を乗せた地面は、まるで黒い空に浮かぶ島のように見える。

その緑の塊が、吸い込まれるように小さくなっていき、真闇の空間も同等に狭まっていく。

やがて黒い点のようになり、シュンッと僅かな音を立てて収束した現象のあと、約束されたように森の修復が始まった。


割れた地面の周りがメリメリと寄せ集まり窪みを無くし埋めていく。

木々は脚の生えた生き物のように動き、ぽっかりと空いた空間を程良い間隔で埋める。

これは魔王の力のおかげなのか、それとも森の再生能力か・・・。



やがて何事もなかったかのように静かな森に戻り、見た目には何も変わっていない。

こんな異変は、実は国のあちこちで起きていた。

街の片隅、森の奥、山の中。

いつの間にかあるべきものが無くなっており、それに気づかないまま民は暮らしている。

現象を目撃しなければ永遠に気付かないだろう。

そんな小さな小さな異変に気付いたのは、持ち帰られたラシュの実を見たビリーの家の爺様と森の中の小動物。

まだこの二人だけ――――





籠いっぱいの実。

全部が金貨に見える。

何といっても貴重な実だ。

一人一つずつ食べて、後は全部市場で売ろう。

いくらで売れるかな。

今までの値を調べねぇとな。



あれこれ小声で話し合い、狩り獲った獲物の分け前相談も忘れ、ホクホク顔で帰り着いた二人。


ここはビリーの家。

森の傍にあるこの小さな家に、ビリーは年老いた爺様と愛しい妻と3人で暮らしている。




「ただいま、モリー」



戸を開け出迎えた妻をそっと抱き締めてお腹を優しく摩る。

愛しいモリーのお腹は膨らみ、あと2か月もすれば可愛い赤ちゃんが誕生するのだ。

珍しいラシュの実も手に入れ金貨の当ても出来、幸せいっぱい、にこにこと御機嫌なビリーだ。

釣られてモリーも自然と笑顔になる。




「今日は随分御機嫌なのね?いいものでも獲れたの?」

「あぁ、最高のものが採れたんだぞぉ。あとで食べよう」

「そうなの?それは楽しみにしてるわ。・・・あらぁ、クルフじゃないの。久しぶりね、ご飯食べてく?」


「うーん、いや、嬉しい誘いだけど、いいよ。家にも待ってる妻と子供がいるからな。―――――うん、モリーもあと少しだな?体には気をつけろよ、うちは難産だったからなぁ・・・」