魔王に甘いくちづけを【完】

黒は魔者を引き寄せる者。

近寄りたくないと思うのは、当然だわ。

ましてや一緒に遊ぶだなんて・・・。

言い伝え通りに“もしも襲われたら”と考えれば、普通に避けさせるわよね。

哀しいことだったけれど、こんな理由があったなんて。


“お前は特別なんだよ”

“大きくなれば分かるさ”


おばば様の言っていたことが少しずつ解れてくる。



「お前の黒の色彩。姫らしい身のこなし。セラヴィが手に入れたがる訳。俺がこの書物に行き当たり人の国を調べれば、自ずと先の答えに辿り着いた、というわけだ。一気に話してしまったが・・・平気か?」


「えぇ、話してくれてありがとう、バル」



こんなこと、私には知らされてなかったかもしれないもの。

ただ、立派な王に望まれることを喜ぶよう、強国に嫁ぐことを良しとするよう、教え込まれただけのような気がする。



「今の話は魔の国からの見解だからな、人から見た話とはまた風味が違うかもしれん。だが、基本的には同じだろう。必要なら、書物を見せるが・・・?」


「いいわ。今のお話で十分に分かったもの」


「そうか・・・黒髪の姫のいる国。それを調べるには、かなり苦労させられたんだぞ。何処からも情報が出て来なかったんだ。最終的には、釈放と引き換えにして捕えていたテスタの男に聞いたからな・・・あそこは魔者が大半だが人も属している」



バルの顔が苦渋に歪む。

そこまで、してくれたの?

テスタはあのオークションの組織。

メイクを直してくれた女の人や私を担いだ男の人は魔者で、人は・・・あの果物を口に運んでくれた優しい男の人なのかも・・・。



「だから、お前は多分人目を避けるよう、外に情報が漏れないよう、隠されて育てられたんじゃないかと思ってるんだが・・・。心当たりはあるか?」


「・・・あるわ」



なんとなく、そうじゃないかと思っていた。

おばば様と一緒にセリンドルの森で暮らしていたのは、何故なのかほんとのところはまだ分からないけれど。

黒の色彩と関係があるに違いないもの。

大きくなった私が外出するのにも、人目を避けていたようだし・・・。



「俺は、お前がどんな風に育ってきたか知りたいと思っている。どんな思いをしてきたか、話を聞き支えてやりたい。俺の独りよがりな願いだが、思い出し話せるようになったら教えてくれ」



そのあと。

このまま傍にいてやりたいが、お前は拒むだろう?と苦笑混じりに言ったバルは、また明日に、とジークの部屋へと向かった。




室長も戻らず一人きりの部屋。

宝物の絵をそっと指でなぞる。

頭に浮かぶのは、数種類の名前。




「お父様・・・お父様は、一度でも私の名前を呼んでくれた?私は・・・誰?」