魔王に甘いくちづけを【完】

「で、だ。話を戻すぞ――――――


あまりの傍若武人な魔の仕打ちに耐えかねた時の人の王は、何度も魔王と話し合いを持った。


このままでは若い娘が減り、人の存亡にかかわると。

きちんと境界を作り、こちらには来れないようにして欲しいと。


ならば、魔王の力を強大なものにするしかない。

境界を作れるよう、新たな世界を作れるよう、魔者たちを支配出来うる畏怖と確固たる魔力を持つよう。

深い思考に至る答えはただ一つ。



“人の王よ、ならば貴様の黒髪の姫、彼女を貰い受けよう。さすれば我が力は強大となり、そなたの願いを叶えられよう”



人の言葉で言えば、贄を差し出せと要求されたようなものだ。

だが、魔王にとっては願ってもない機会だった。

なぜならば、会を開いて会う度ごとにその黒髪の姫にほのかな愛情を感じていったからだ。

姫を手に入れ、力も手に入れられる。

魔王にとってこんな旨味のある話はない。



人の王は悩みに悩んだが“それが人の世のためになるなら、私はこの身を捧げましょう”との姫の決意と覚悟を聞き、泣く泣く愛しい姫を差し出すことを決意した。


その後、黒髪の姫と婚姻を結び強大な力を手に入れた魔王は、その魔力をもって小さな世界を作り人の世と完全に分ける事に成功した。


が、無理矢理作った世界だ。

保つにはまたこれ力が必要となる。

妃となった黒髪の姫とも相談し、次の御世のために人の王と約束事を交わした。



“この平和を保ちたくば、人に黒髪の姫が生まれし時は魔王のものとせよ”


と。そうなれば、また新たな危険が人の世に舞い込む。

滅多に生まれることのない黒の色彩。

黒髪の姫にしてみれば、魔王の贄になる可能性を持つ者を減らしたつもりだろうが、反勢力が黒髪を狙い亡きものにしようとすることまでは予測していなかった。

新しい世界に狼族は移住したが、魔王に黒を守れと命じられ再び人の世に下った者も大勢いる。

その後何代か御世が変わり今のように安定した世界が構築されるまで、狼による黒の守護は続いた。


今は平和になったからな・・・そんな約束ごとも薄れて、魔王も人ではなく愛する魔族の娘を娶り、愛妾を人の世に持つこともある。

先代の魔王がそうだったな・・・よく人界に下りていたらしい」




・・・そのお話が未だに人の世で息づいているのなら・・・。

言葉は悪いけれど、私は魔王に捧げる贄として、育てられたことになる・・・。



近所の人たちが私を怖がった理由が分かったわ。

遥か昔のこととはいえ、この国でも書物に残されていたんだもの。

こういうことは、言い伝えとして人々の心に深く根付いてるはず。