魔王に甘いくちづけを【完】

「知りたいことは、たくさんあるわ・・・」


何から聞いたらいいのか分からないほどに。

私の周りで起こってること、これから起こりうること、本当のこと、全部を知りたい。

黒づくめの男の目的、マリーヌ講師のインクのこと、カフカのコックさんのこと、それに白フクロウさんのこと。


バルの口調は何でも答えるぞ的な雰囲気を出してはいるけれど、さっきまでの私に対する態度から考えれば、どう贔屓目に見ても期待できる答えはくれそうにない。


隠してることがたくさんありそうだもの。

それなら誤魔化しようがないことを尋ねるまでだわ。

これだったらいくらなんでも教えてくれるでしょう?

貴方自身のことだもの―――



「―――バルは、どうして・・・いつ、私の祖国がカフカだと、わかったの?」



バルは一瞬目を瞠ったあと、あぁそのことか・・、と言いながら眉根を寄せた。

やっぱり、これも答えたくないことなのかも。



「うむ・・・わかったというか―――そうだな、行って来たという報告だけでは駄目だという訳だ。これも話さねばならんことか・・・」



一つ小さく息を吐いたバルの体が一歩近づき、綺麗だな・・と呟きながら長めの指で黒髪を一束掬ってさらさらとこぼした。



「まだ、思い出せていないかもしれんが。お前のこの美しい黒髪、この黒曜石のように黒い瞳も。人としては珍しい色彩なんだ。基本的には魔の色だからな」



・・・人には少ない色・・・。


そう言われてみれば。

記憶の中で黒髪を見たのはあの男の子だけ。

お父様もエリスもおばば様も色が違っていた。

たしか、ブラウンに近い薄めの色。

騎士の方だけは印象に残るほどに綺麗な金髪だった・・・。

薄い色合いの中にこれだけが強く出るのは、あこがれていたからかも。

子供ながらに、こんな色だったらどんなに素敵だろう、と思っていたんだわ。




―――黒は、魔の色―――


・・・だから、私は嫌われていたの?

それだけで、あんなに―――?



「加えて体から漂う甘い香り。これは魔族、特に吸血族にとっては堪らなく香しく惹き付けられるものだ。まず、男は迷わず食指が動くだろう。お前は、あのラヴル・ヴェスタのそばにいたんだ、危険な目に合うことはなかっただろうが。一人であの国を彷徨っていれば間違いなく、今頃は――――」



バルの長い人指し指がくいっと動き、天を指差す。

堪らずに身震いして、ごくんと息を飲んだ。


ヤナジの夜会であったこと、そのあとルミナの屋敷で起こったこと、ありありと思い出した。

あの時は、みんな私を・・・・。


だったら、あの黒づくめの男が襲って来た理由も、それなのかしら。



バル達の食指は動かないの?

まさか、いつも我慢してる?



見下ろすのはいつもの優しく穏やかな瞳。

私は、貴方やジークを信じてもいいのよね―――?