魔王に甘いくちづけを【完】

「バル様・・・一つ報告があります。これはついさっき俺が友人から聞いたんですが・・・。事件と言っていいのか分かりませんのでバル様までには伝わっていないと思います」

「・・・何だ?彼女に関係のあることか?」

「はい、大いにあります。2日前から、例のコックが行方不明になっているそうです」

「っ、それは本当か!?まさか、それは―――」



と、思わず声を上げた次の瞬間。

コト・・・カタン・・と、カップを置く音と床を打ち付ける軽い音がし、彼女が椅子から立ち上がったことを知る。


気付かれてしまったか、当然だが。

うむ、どう誤魔化そうか―――


ジークを見れば隣でやれやれとばかりに首を振っている。



「バル、どうかしたの?まさか、白フクロウさんに何かあったの?」



蒼白な顔、いつも美しく煌いてる黒い瞳は不安そうに揺れている。

しかし、こんなときに何だが・・・どんな表情をしていても、お前は魅力的なんだな・・・。

抑えてはいてもつい触れたくなる。

急ぎ傍に寄って行き小さな手を握る。


―――安心してくれ、俺がお前を守るから―――


そんな思いを込めて、力弱く、そっと握る。

お前に触れるには、常に細心の注意を払わねばならん。

少しでも力を入れ過ぎると、この体は壊れかねんほどに柔らかい。



か細い体の周りで起こる奇妙な事象への恐怖。

失った記憶に対する不安と苛立ち。

祖国と家族を失った悲しみ。



そんなものを、この小さな心の中に一身に閉じ込め、必死に生きようとしている。

懸命に過去を思い出そうとしている。

お前は孤独だと思ってるだろうが、決してそんなことはない。

独りじゃない、俺がいる。

ジークもリリィもだ。

支えてやりたいと思う、ずっと、この先も―――



「安心しろ、白フクロウには何にも無い。すぐに元気になるそうだ。すまん、驚かせたな・・・」



何か言いたげに動き始めた薄紅色の唇を、手の甲でそっと塞ぐ。

そんな瞳で見つめられれば心が揺らぐが、すまんな、今は俺にも考えを纏める時間が必要だ。


と、廊下の奥の方から、『ウフフ』と、聞き覚えのある女の子の明るい笑い声と『時間がねぇから、なるべく早くしろよ』と、これまた嫌と言うほど聞かされてる男の声を俺の耳が拾った。

足音はだんだんに近付いてくる。



・・・なんだ、アイツは彼女と一緒に居ても口調は一緒なんだな。

よく嫌われないもんだ。

っと、そうだな。帰って来たとなると・・


「ジーク、二人が城下デートから帰って来たらしいぞ」

「は?それは・・・案外早いお帰りだな・・・はい、承知してます」





『あれ?・・・ね、ザキ、ドアが開いてるよ。珍しいね、どうかしたのかな』



ぱたぱたと駆け寄る足音が近付いてくる。

ガサガサと聞こえるのは、買い物袋か。



「・・・っと。これはどうかしたんすか?バル様に、ジークまでいるじゃねぇっすか」