魔王に甘いくちづけを【完】

「まってろよ。お前は心配するな、今治療するからな」


てきぱきと器用に動き回るジークの手と指は、話してる間も止まることがない。

ソファの一角があっという間に治療場に様変わりした。



「ジーク、私も何か手伝えることがあれば言って欲しいの」

「あぁそうだな・・・いや、ありがたいが。お前は血が苦手だろう。椅子に座ってろ。今は気丈にしてるが、後で俺の仕事を増やして貰っては困るからな。・・・室長、頼んだぞ」

「承知しましたジーク様。さ、ユリア様此方に・・・ジーク様にお任せすれば大丈夫ですわ。お茶を持たせましょう。飲めばきっと落ち着きますから」

「室長、茶ならカルラーニがいいぞ。鎮静作用がある」



テーブルには今日の課題がやりかけそのままに乗っている。

それを退けてお茶の準備がされ、どうぞと差し出された。


「―――ありがとう。いただくわ」


ホワホワと湯気の上がるカップを持って香りを嗅ぐと、飲まなくてもそれだけで気分が落ち着いてきた。

ソファの方では治療が進められているよう。



あちこち薬が塗られ大きな傷は縫合される。

血はなるべく拭きとり乱れている羽も綺麗に整えながら、最後には小さな頭がすっぽりと隠れるほどに大きな大きなガーゼを貼りつけて、ジークはふぅと息を吐いた。


辺りに立ち込める消毒薬のツンとした匂い。

カチャカチャと器具を片付ける音。

気付けば窓の外には夕暮れが迫ってきていた。

室長が静かに部屋の灯りを点けてまわる。

と、器具を仕舞い終わったジークの独り言が聞こえてきた。



「出来りゃ、今夜一晩は俺の部屋に連れて行きたいとこだがなぁ・・・コイツは、納得しねぇだろうなぁ・・・」

「でもジーク、その方がこの子のためになるのでしょう?だったら、そうして。私は構わないわ」


「・・・っ、聞こえたか。そうしたいのは山々なんだが・・・なぁ・・・」



何が駄目なのかちっとも分からないけれど、ジークは顎を撫でながら「うー」と唸り声を上げてひたすら考え込んでいる。



「ユリア様、王子様が来られましたわ」



バルに対して挨拶をしようと立ち上がると、両肩をそっと押されて椅子に戻された。


「嫌な思いをしたな。平気か?」


問いかけに対して無言で頷くと、お前はここにいろと言い残してジークに近付いて行く。



「ジーク、我が妃候補殿のペットが負傷したと聞いて来たが・・・容体はどうなんだ」

「――――バル様・・・」


ちらっと、此方を振り返り見たバル。

普通の声の大きさで始まった会話は、だんだんに小さくなっていき聞こえづらくなってきた。

ぼそぼそと声の音だけが耳に届いてくる。

私には、聞かせたくないみたい・・・。