魔王に甘いくちづけを【完】

―――それって。

そこは・・・もしかしたら。

胸がドキドキする。

もし、今見たものと少しでも符合すれば、バルは私の部屋に行って来たことになる。

現実と過去の映像が交差すれば、私の事実にまた一歩近づける。

一枚ずつ、少しずつ開いていた記憶の扉が、一つに繋げていけそうな、そんな予感がする―――



「その部屋は淡い桃色の調度品だった?カーテンはクリーム色で、丸いクッションがあって・・・」


堰を切ったように尋ねると一瞬目を瞠ったバルの体がすっと離れ、真剣に考え込むように瞳を伏せた。

指先を額に当ててトントンと叩き始める。



「うむ、待てよ。それはきっとお前の部屋なのだな。・・・桃色?・・・焦げていて判別は難しいが、これが入っていたのはそんな感じの色ではなかったな。それに。丸いクッションもなかった。カーテン・・・は、無かったぞ。ベッドはあったが、天蓋は無かった。痕跡はあったから、恐らく略奪されたのだろう。全体的に配色は濃い色だったと記憶してる」


「そう、なの・・・」



・・・濃い色合いなら、私の部屋とは違うわ。

でもこの絵があったのなら・・・それは、どういうことなのかしら。


視線を落とすと、バルも絵を覗き込んで紙の輪郭を指で辿った。



「これは多分、全体の一部分だろうな。形が細長くて不自然に絵が切れてるだろう?普通の絵師はこう描かない」



太めの指が辿って示すのはお父様の体。

目線はまっすぐ向いているけど、肩の線は斜めになってて腕が中途半端に切れている。

私の体も同じ方向に向いてて、ひざの部分が少し欠けている。

この向こうに、誰かがいる?



「この部分がおかしいだろう。半分に切り取ってある感じを受ける。元々はもっと大きいはずだ。何故切ったのかは分からんが、見えない部分・・・こちら側に、上と下で二人はいる筈だぞ。いや、もっといるかもしれん」



やっぱり・・・その通りなのだとしたら。

二人だったら、一人はお母様だとして。

もう一人は、誰なのかしら・・・。



もやもやとする。

何かが思い出せそうで、だけど霧に包まれてて。



そうだわ。


ハッと思い出す。

あの方なら・・・あの方なら何か知ってるかもしれない。

帰ってきたら、すぐにお願いしようとしていたこと。



「バル、私・・・バルにお願いがあるの」