魔王に甘いくちづけを【完】

「王様、セリンドルの森から引き取って来たばかりなのです。まだ慣れないのです。怯えているではないですか、ご勘弁願います」

「む、そうであったな。すまんな、姫よ。驚かせた。父は怒ってない、ほれ・・・泣くでない」



お髭が目の前に下りて来て、頭をぽんぽんとされた。

太い指が瞳にたまった涙を拭いてくれる。



―――やさしいおめめ。

おばばさまのににてる。

まちがえたのはわたしなのに。

ほんとにもう、おこってないの―――?




「・・・それから、この者がこれよりそなたの身の回りの世話をする」



紹介された女の人が目の前に沈み込んだ。

清潔な黒い服を着て真っ白なエプロンをつけている。

膝をついて私と目線が合うと、綺麗な笑顔が向けられた。



「はじめまして、姫様。エリスと呼んで下さい。これから誠心誠意お仕え致しますわ。よろしくお願い致します」



年は16歳だと言った。

綺麗な手が私の小さな手を包み込んでくれる。

おばば様がよくこうしてくれた。

あたたかみが伝わってきて、安心させてくれる、やさしい温もり。



―――おねえさんみたい。

とてもやさしそう。

だけど―――



遊んでくれた、あのお姉さんの事を思い出す。

笑顔が可愛くてお菓子をくれたりした優しいお姉さん。

けど、ある日突然遊んでくれなくなった。


怖い、と言って逃げていく歪んだあの顔が忘れられない。

友達になった子も、次の日にはママに叱られるからと遊んでくれなくなった。


いつもひとりで、いた。



「あの、エリス・・・わたしのこと、こわくないの?」