魔王に甘いくちづけを【完】

「旅の、成果――――?」


四つに折りたたまれてるそれは、私のてのひらよりも少し小さいくらいのもの。



「バル、教えて。それには、何が書かれてるの?」

「うむ、もしかして・・・見るのが怖いか?」

「えぇ、少し・・・だって――――」


―――急なことなんだもの。

もし、史実が書かれたものだとしたら・・・。

私の過去が書かれているとしたら・・・。

嫌な部分が見え隠れする私の事実と国の現実。

向き合うには、それなりの強い心がいる。

バル、いろんな意味で貴方が戻ってくるのを待っていたわ。

話があると言われていたもの、これでもそれなりの覚悟はしていたの。

でも、これは想像以上のことで・・・。

貴方は今、言いたいことをすっぱり話してしまったおかげか、悔しいくらいに穏やかな顔をしてるけれど。

私の心は貴方に乱され続けてるの、分かってる?

この短かい時間の間に――――



「そんな不安そうな顔をするな。大丈夫だ、お前はきっと喜んでくれる筈だ。下の方少し焦げたところもあるが、大体綺麗なまま残っている。少し皺が入ってしまったが、許してくれ。これでも慎重に持ち帰って来たんだぞ。これは、お前のものだ」



なかなか手を出す決心がつかずにバルの顔を見つめてると、落ち着いたブラウンの瞳と差し出されてる手が早く受け取れと促してきた。



「これが・・・・私の、もの・・・」



私の祖国カフカを訪ねて持ち帰ってきてくれたもの。

私が見て、嬉しく思えるもの。

ということは、つまり、辛いことは書かれていないわけで――――



息を飲み意を決するけれど、紙へ伸ばす手が緊張して震える。

記憶をなくして、祖国が分かったと思えば滅んでいて。

記憶ばかりか思い出も家族も全部を失ってしまって、私にはもう何も残っていないと思っていた。

なのに・・・―――


触れた指先に伝わってくるほんのりとしたあたたかさは、バルの心そのもののよう。

てのひらの中に収まるそれを見つめる。

小さな紙切れだけど、私の祖国にあった物。

遠い遠い祖国カフカの香りがする物。


一体何が書かれてるのか・・・これを開けば・・・。


木々を揺らす風の音も会場から漏れてくる愉しげな話し声も、周りの音すべてが遠くなって、身のうちの鼓動だけがやたらと煩く耳に届いてくる。

折りたたまれた紙を震えた指で慎重に開く。

小さな雲に隠れた月が徐々に顔を出し、紙をゆっくり照らしていった。

月明かりで徐々に浮かび上がった、そこには―――――