「最初は、ただの恩返しだった・・・。お前を買主から解放出来ればと思ったんだ――――金額を聞きそれが無理そうだと悟れば、せめて怪我が治るまで俺が看病をしようと考えた。そうして毎日世話をしていくうちに、お前にどんどん惹かれていく自分がいた」
摩っていた手首が離され、伸びてきたバルの手が背後の柵を掴む。
腕の中に閉じ込められて、心臓の音が聞こえそうなほどに逞しい胸が目の前に近付く。
「傷が痛むだろうに、俺に気遣い体を動かそうと頑張る姿。辛い中、時たま見せてくれた眩しいほどの笑顔。リリィを気遣う優しさ。全てが俺の心を捉えて離さないんだ」
バルの体が屈み、視線が合わされる。
広間の方ではルーガルの歌が終わったようで、がやがやと楽しげな話声がし始めていた。
バルを探している人もいるはず。
もしかしたら、ここに来るかもしれない。
それに構いもせずに、バルは話し続ける。
「俺が旅に出たのはお前のためだ。お前に記憶を取り戻して欲しい。お前の名を呼びたい。ただ、その一心だ。・・・俺は、手に入れたいと思ったものを逃したことはない。今までも、この先もだ―――お前をこの腕に抱く・・・その為なら、どんな努力も厭わない」
「バルは・・・カフカに行って来たと言うの?」
バルは無言で頷く。
私のため・・・・。
でも、私の祖国がカフカだと知らないはずなのに。
どうして・・・どうやって知ったと言うの―――
頭の中が混乱してくる。
吸血族の正式な儀式・・・バルの真剣な想い・・・旅のこと
「俺はお前が欲しい。相手が例え魔王であろうと、渡せない。こんな気持ちになるのは初めてだ。旅の間ずっと、空を眺めながらお前のことを想って自分を励ましていたんだ」
大きな掌が頬に触れる。すーと撫で下ろされた指先が顎にまわり、バルの瞳と合わせるように軽く固定された。
「――――俺を・・・選んでくれ」
「バル・・・貴方のことはとても尊敬してるわ。皆から愛される立派な王子様ですもの・・・でも、私には・・・祖国もなくなってしまったし、後ろ盾になるものは何もないわ。貴方にとって相応しい女性ではないの。それに――――っ・・・」
先まで紡がれるはずだった言葉は、背中にまわされた腕によって遮られた。
逃げ場のない体は簡単に収められ、吹きわたる夜風からも月の光からも守られるほどにまるごとすっぽり包み込まれた。
腕の中に埋もれた耳には、はっきりきっぱりとした声が頭の上から届けられる。
摩っていた手首が離され、伸びてきたバルの手が背後の柵を掴む。
腕の中に閉じ込められて、心臓の音が聞こえそうなほどに逞しい胸が目の前に近付く。
「傷が痛むだろうに、俺に気遣い体を動かそうと頑張る姿。辛い中、時たま見せてくれた眩しいほどの笑顔。リリィを気遣う優しさ。全てが俺の心を捉えて離さないんだ」
バルの体が屈み、視線が合わされる。
広間の方ではルーガルの歌が終わったようで、がやがやと楽しげな話声がし始めていた。
バルを探している人もいるはず。
もしかしたら、ここに来るかもしれない。
それに構いもせずに、バルは話し続ける。
「俺が旅に出たのはお前のためだ。お前に記憶を取り戻して欲しい。お前の名を呼びたい。ただ、その一心だ。・・・俺は、手に入れたいと思ったものを逃したことはない。今までも、この先もだ―――お前をこの腕に抱く・・・その為なら、どんな努力も厭わない」
「バルは・・・カフカに行って来たと言うの?」
バルは無言で頷く。
私のため・・・・。
でも、私の祖国がカフカだと知らないはずなのに。
どうして・・・どうやって知ったと言うの―――
頭の中が混乱してくる。
吸血族の正式な儀式・・・バルの真剣な想い・・・旅のこと
「俺はお前が欲しい。相手が例え魔王であろうと、渡せない。こんな気持ちになるのは初めてだ。旅の間ずっと、空を眺めながらお前のことを想って自分を励ましていたんだ」
大きな掌が頬に触れる。すーと撫で下ろされた指先が顎にまわり、バルの瞳と合わせるように軽く固定された。
「――――俺を・・・選んでくれ」
「バル・・・貴方のことはとても尊敬してるわ。皆から愛される立派な王子様ですもの・・・でも、私には・・・祖国もなくなってしまったし、後ろ盾になるものは何もないわ。貴方にとって相応しい女性ではないの。それに――――っ・・・」
先まで紡がれるはずだった言葉は、背中にまわされた腕によって遮られた。
逃げ場のない体は簡単に収められ、吹きわたる夜風からも月の光からも守られるほどにまるごとすっぽり包み込まれた。
腕の中に埋もれた耳には、はっきりきっぱりとした声が頭の上から届けられる。


