魔王に甘いくちづけを【完】

「あの時・・・瑠璃の森で再会した時、お前に一つ質問したな。あれは、答え難かっただろう。・・・今更だが、すまなかった。約束通り他言していない。その点は心配するな」

「・・・はい」



よく覚えてるわ・・・あの時は確か二つ質問があるって言っていたっけ。

一つは私の値段。

もう一つは、結局問われていないままで日々は過ぎてしまってる。

もしかして、今、残りの質問をするつもりなのかしら。



バルの顔をじっと見つめていると、また一歩近付かれた。

二人の間の距離がさらに縮まり、少し腕を動かせば互いの体に触れられるほどになってしまった。



「今から、大切な話をする。俺としては、最大限の勇気を持ってするものだ。よく聞いて欲しい」



一旦瞳を閉じて深く息を吸い込んだバルの緊張感が、強めの吐息にのせられて伝わってくる。

開いた唇を再び閉じて、空を仰ぎ見た。

何か呟いているように唇は動くけれど、言葉は風にのって掻き消えてしまって全く伝わってこない。



「その前に・・・確認したいことがある。やはりこれを聞かんとどうにも前に進めんようだ」



夜風が二人の間を通り抜ける。

ふわふわと揺れたバルの髪が月に照らされ、所々金色に艶々と光る。



「お前は、彼の元に――――ラヴル・ヴェスタのところへ、戻りたいか?」



一つ息を吐いて、ゆっくりと空から視線を下げたバルは、一つ一つの言葉を噛み締めるようにして問いかけてきた。

ひたと合わされた瞳は少し潤み、出された声は切なさを含んでいるように感じる。



―――そんなことを聞かれても・・・私の気持ちは―――



「・・・バルは知ってるでしょう?ラヴルは私のご主人さまだということを。彼が私を望んでくれるのなら、戻らなければならないわ。それに、戻りたいも戻りたくないもないの・・・私の意思は・・関係ないんだもの・・・」




“貴女が必要だ”



―――私は買われた身。

私に対する愛情は無くても、この体も血も今はラヴルのモノ。


“生かすも殺めるも私の心一つ”


あの言葉通り、私の命もあの方のモノ。


いくら私がラヴルのことを想っていたとしても。


傍にいたいと願っていても。


必要だと望まれなければ、戻ることなんて出来ない。


逆に、望まれれば例え嫌だと泣き叫ぼうと、傍から離れることは出来ない。



それがラヴルと私の関係―――





「ならば、だ。・・・もしも俺が――――――お前を望んだら・・・。お前にずっと傍にいて欲しいと望んだら、どうする?」