魔王に甘いくちづけを【完】

その度に妃候補だと紹介され、大抵の方は一瞬驚いた後にこにこ笑顔になって挨拶をしてきた。

そんな紳士淑女に対し、微笑みを作って当たり障りない柔らかな対応をする。

挨拶の波がおさまった頃。


「王子様、是非旅の話をお聞かせ願えませんか」


数人の紳士方に声を掛けられたバルが腰から手を離して背をそっと押した。


解放してくれたことに感謝して、適度に飲み物と食事を取っていただく。

楽士は音楽を奏でているけれど、ダンスもない立食の夜会。

話すのがメインな様で、周りを見渡せばあちこちで会話の輪が出来ていた。


会場の隅にザキとリリィの仲睦まじい姿が見えたので、声を掛けようとして動いていたら


「まぁ、まぁ。貴女、こちらにいらっしゃいましたの?探していましたのよ。漸く見つけましたわ」


と、数人のご婦人方に捕まってしまった。



「ユリアさん、王子さまと何処でお知り合いになりましたの?」

「出身はどちらの国ですの?」

「失礼ながら、見たところ魔族ではありませんわよね?」


などなど。

上品に着飾ったご婦人方にすっかり囲まれて、にっこり柔らかな笑顔で矢継ぎ早にあちらこちらから質問が飛んでくる。

ご婦人方も自分のことを話しつつも上手に尋ねてくるので、記憶がないことを説明すると「まぁ、そうなんですの・・・」「それは大変ですわね」と、気の毒そうな顔を作って向けてきた。




「会場の皆様!ルーガル・ビリーズ、僭越ながら一曲歌わせていただきます!」



透き通るようなテノールの声が会場に響き渡る。

ざわめいていた会場の中を一瞬で黙らせる声の力。

見れば、真ん中で一人の紳士が両腕を大きく広げていた。

その傍には、王さまと王妃さまが微笑んで立っているのが見える。

その声は、皆の注目を一気に集めワッと拍手が沸き起こり、再びざわめき始めた。



「まぁ!皆さん、お聞きになりました?ルーガル殿、始まりましたわよ」


目の前にいたご婦人が楽しげに声を上げる。

夜会やパーティの毎度の余興の一つなのか、どやどやと人が移動し輪が出来始めた。


「ユリアさんもお聴きになると宜しいわ。あの方の歌は天下一品ですのよ」