魔王に甘いくちづけを【完】

「少し過敏になっていたな。お前にそんな顔をさせるつもりはなかった。すまん」


少し開いていた二人の間の距離が、一歩で縮められた。

金色の瞳と体から発せられる気が、熱を帯びているよう。

体温が伝わってきそうなほどの至近距離。

あまりに見つめられるものだから居た堪れなくて少し離れたくなる。


「・・・困ったな・・・触れたくなる―――」

「え・・・?」



逃げる間もなく腰を引き寄せられて、ふんわりと包み込まれた。


・・・抱き締めたりはしない。だから、逃げないでくれ。

暫く・・・このままでいてくれ・・・



頭の上から囁くように言われて。

迷ったけれど、逞しい胸に置いた手の力を抜いた。

アリの時のように嫌な気持ちにはならない。

バルはこれ以上のことはしないって信じてるから。


腕の力が強まったり弱まったりを何度か繰り返され、髪の香りを嗅ぐような気配の後、ゆっくりと腕が離された。

両肩をそっと掴まれて、見上げれば金の瞳は潤んで揺れていた。


「このままゆっくり話をしたいが、そうもいかん。もう行かなければ。それにこれ以上触れてると、忠義なペットに襲われそうだからな」


冗談ぽく言ったバルが上をチラッと見やったので、釣られて振り返り見ると白フクロウさんは何をするでもなく、静かに此方を見ていた。



「妃候補殿、私と共に夜会へ―――」


一歩離れて恭しく手を取って指先に唇を落とす。

金色だった瞳は落ち着いたブラウンに戻り、バルらしい爽やかな笑顔が向けられる。

・・・良かった、いつものバルだわ。


「・・・綺麗だ。お前をエスコート出来るとは、俺は幸福者だな」

「ありがとう、バル」


差し出された腕に手を乗せ、導かれるままに夜会の会場へ向かった。

いろいろ聞きたいこと、頼みたいことはあるけれど、今は出来ない。





初めて足を踏み入れる王の城宮。

その1階の大広間に準備されたのは、テーブルから零れ落ちそうなほどに乗せられた数々の料理。

煌びやかなシャンデリアから落とされる光で、金の食器類が鈍い光を放っている。

急に行われた夜会にもかかわらず、方々から沢山の来賓が訪れていて、王さま王妃さま共に挨拶に忙しそう。

バルの元にも品のある方々が次々に挨拶に来られる。