魔王に甘いくちづけを【完】

侍女たちの二つ目の質問に移ろうとすると、続きがあるとばかりにすぐさま強い声で遮られた。

いつもの冷静な瞳が、揺らいで見える。

バルの帰城が遅くなると伝えられた時と同じもの。



「―――周りの者たちが、私のことをどう評価しているのか分かっています。どう呼んでいるのかも。ですが、私は普通の健全な男です。ですから―――・・・これでも、想うお方はおります。・・・その方に対しては、私は」


急に押し黙った唇がキュッと結ばれる。



「・・・私は・・・何?」

「・・・何でもありません。貴女様に申し上げるべきではありませんでした。どうぞお忘れ頂きますよう願います」



早口で言い置き、足早に壁際に戻り手早く手荷物を取りまとめて、失礼致しますと挨拶をしてドアに向かう。

ドアノブに手をかけるその間際、何かを思い出したように、あぁそうでしたと、振り返って瞳を光らせた。



「ひとつ、申し上げるのを忘れておりました。おめでとうございます。先日の試験は、合格でした」


「本当なの?それなら城下に行けるのね?」



全く自信がなかっただけに、嬉しさも倍増する。

笑顔を向けると、アリの瞳が少しだけ細くなった。

その表情が意地悪いものに見えるのは、日頃から植え付けられてる悪い印象のせいだと思いたい。

と考えたのもつかの間のこと。アリはやっぱりアリだった。



「はい、ですが――――・・・結果は合格でしたが、ギリギリだということをお忘れなきよう願います」

「城下見物には、リリィも一緒に連れて行ってもいいですか?」

「・・・お待ち下さい。まだ先が御座います。課題10割にならなければ城下見物は致しません。さらに励まれるよう、お願い致します」


「そんなこと、聞いてなかったわ・・・」

「そうでしょう。今、決めましたので」


「今って――――」


講義の声もものともせず不敵な表情をするアリ。

頂点から一気に下降してしまい、アリを睨む気力もない。

やっぱり、この方はとんでもなくいじわるだわ・・・。

ドアが開いた途端に、集まってた見習い侍女たちの嬉しそうな声が廊下から聞こえてくる。

・・・何も知らないって、幸せなことだわ・・・。