魔王に甘いくちづけを【完】

そろそろリリィたち見習い侍女が廊下に集まる時間。

きゃぴきゃぴと騒がしいのが苦手なようで、無表情にも嫌そうな雰囲気が漂い始める。



「ごめんなさい・・・忙しいのは分かってるわ。でも、質問があるのは本当なのです」

「先に申し上げておきますが、くだらないことであればお答え致しません」



振り向いた顔がとても冷たい。

おかしなことを聞いたら、容赦ない言葉で攻撃されそうな雰囲気。

体から放たれるひんやりとした気がこちらまで漂ってくるよう。

期待満面の笑顔で、両手を胸の前で組んで瞳を輝かせていた侍女たちの姿が思い浮かぶ。

ごくんと息を飲んで、気持を整える。


ここで怯むわけにはいかない。

貴方にとっては確かにくだらないことだけれど、皆にとってはとても重要なことなんだもの。

恋する乙女たちの気持ちを私が汲まなければ、他に誰がしてくれるというの?


妙な使命感がむくむくと湧きあがり、怯んで隅に追いやられた勇気をなんとか引張り上げて、喉の奥に詰まった言葉を一気に吐きだした。



「貴方には、心に決めた方はいらっしゃるの?」



片付けの手をピタと止めて、振り返って足早に此方に近付いてくる。

無表情なまま真っ直ぐに見つめられて迫られると、とても怖いものがある。

くだらないことを!と、説教が始まると思ったけれど返ってきた言葉は意外なものだった。



「それは・・・貴女様からの、質問なのですか」


高い位置から見下ろされ、いつもよりも低い声で逆に尋ねられて一瞬答えに詰まる。

ここで違うと言えば、とんでもない捨て台詞を残して部屋から出ていってしまいそう。

そうですと言っても、怒られそうな雰囲気だけれど。

でも、少しでも答えてくれる可能性があるのなら、逃せないわ。



「え・・えぇ、そうよ。私の質問です。アリは、婚約してる方はいらっしゃるの?」


心の中を探るような瞳にじっと見つめられ、計らずも動揺してしまう。

嘘だとばれてしまったかしら・・・。



「意外ですね。貴女様が私にその様な質問をなさるとは。応えて差し上げましょう。・・・・そんなお方は、おりません」

「そうなの。えっと・・・それなら――」

「―――ですが」