魔王に甘いくちづけを【完】

エヘヘと照れたように笑うリリィ。

初恋の人なら心の中に大切にしまっておきたいものよね、きっと。


「ね、それから・・・病気療養のマリーヌ講師の代わりにアリさんがここに講義に来てるって本当?ってみんなに聞かれたの・・・そうなの?」

「えぇ、そうよ・・・」


随分情報が早いのね・・・今日のことなのに。

侍女たちの情報網の素晴らしさに唖然とする。

一体何処から広まるのかしら。



「じゃぁ、ランチの前に急いでここに来ればもしかしたら会えるんだぁ」



やったぁ、明日みんなに言わなくちゃ、と嬉しそうに弾んでる。

この分だと、明日のお昼ごろは廊下が騒がしくなりそうだ。

リリィたちが来るまで彼を引き止めるように努力してみようかしら。



質問でもして・・・と思案を巡らせていると腕の中で身動ぎが始まった。

むずむず動いて瞳がくりくりと動いている。

そろそろ限界なのかも・・・。

そう思い、テーブルの上にそっと離すと天蓋の方へ飛んでいく。

定位置に戻って安心したのか、早速胴体の中に首を引っ込めて眠り始めた

そのうち腕の中で眠ってくれるようになるかしら。



「ねぇ、リリィ。見かけに騙されてはダメなのよ?彼は・・・とてもイジワルなお方かもしれないわよ?」


「知ってる。すごぉく冷たいんでしょ?そこが素敵なのって言ってる子が多いよ」



そう・・よね、そうだった。

“アリ様の素敵さについて”の講義をしてくれた侍女。

あの子も“振り向いてもらうために頑張ってしまう”みたいなこと言ってたっけ・・・。


アリには性格に問題があって人気があるなんてどうにも不思議に思えるけれども、その部分を除けば私にも彼女たちの気持ちを理解できる部分もある。



住む世界が違うのに、私を買ったあの方。

名を呼ばれて向けられる妖艶な微笑み。

包み込んでくれる優しい腕の中。

あの方の背中はどこまでも追いかけていきたくなる。

追いかければ追いかけるほど遠くに感じる。

傍にいる時も、私を通り越しているように遠くを見つめていたあの優しい瞳。

それを自分だけに向けて欲しくて堪らなかった。

とても不安だった。

必要とされなくなれば捨てられると、いつも覚悟していて。


ヘカテの夜・・・。

あの日抱かれながら嬉しい言葉をたくさん貰ったけれど、私に言ってくれてるのか、私を通して見ている誰かに言ってるのか分からなくて未だに不安になる。


私は誰かの代わりなのかもしれないって。



ラヴル、私は・・・貴方の言葉を信じてもいいの?

貴方は、まだ私を必要としてくれてる?