魔王に甘いくちづけを【完】

大荒れの天候に変わり、穏やかな日差しが射す城宮のユリアの部屋。

傍から見れば、実に平和な光景に見えるアリ臨時講師とユリアの会話。

けれど、ユリアの心は――――




「マリーヌ講師より引き継いだ講義計画に基づき実力試験を作成して参りました」



そう言ってピシッとテーブルの上に置かれた紙。

マリーヌ講師のものに負けず劣らずの問題数。

几帳面にも丁寧な細かい文字がびっしりと並んでいる。

男性なのにこんなに細かいなんて・・・もっと大まかに書けばいいのに。



「やっぱり試験はするんですね・・」



ため息交じりにそう言えば、フッと鼻で笑ったような音がした後冷淡な声が降ってきた。



「貴女様は・・・仕方ありませんね。こう申し上げればやる気を出されますか。・・・この出来如何で城下見物に連れて行って差し上げます」



「・・・城下に行けるのですか?ほんとうに?」


アリの口から出たとは思えない言葉、理解するまでに一拍の時がかかった。

全くの上から目線の物言いだけれど、嬉しくなって笑顔で見上げる。

と、何に驚いたのかびくっと体を震わせて一歩後ろに下がった。



「・・・彼女がそう申し上げていたのなら、そうすべきだと考えます。危険ではありますが、そこは警護を強めて対応致します」



それだけを言い残し、踵を返して壁際の椅子にすとんと座った。

脚を組んで腕を組み瞳を閉じて俯いている。

前も不思議に思ったけれど、あれで警護になってるのよね。


今度は瞳を上げて白フクロウさんの様子を見る。

前回はいたずらしてきたけれど、今回は・・・大人しく天蓋の上にいるわ。

動く様子もなくていたずらする気はないみたい。

ガラス玉の瞳はアリを見てるようだけど―――



「ぼんやりせずに早く始めた方が良いと存じます。開始時間は遅れてますが終了時間は伸ばしません。合格は9割と定めてあります。心して下さい」

「・・・9割・・・・」



ざっと見たところ100問以上はありそう。



「本来ならば10割なのです。妃となるならば才色兼備でなければなりません」



―――それならそうと、最初に言ってくれればいいのに―――


“講義は遅れても構いません”


なんて言うんだもの。

じっくりゆっくり王妃さまのお手紙を拝読してしまったわ。

おまけにざわついた心をおさめるのに少し時間を取られたもの。


これだと、構わないのは貴方だけで私の方は十分に構っていたわ。

恨めしく思ってじろっと睨んでもアリの態度には変わりなく、くいっと顔を上げて涼しげな瞳で「お早く」と急かしてきた。


今更時間を延ばして欲しいと交渉しても無駄に時間が過ぎるだけよね、きっと。


「分かったわ・・・9割ね」


仕方なくうんざりしながらもそう言えば、冷淡な声が返ってきた。


「ご存知のことと思いますが、一応申し上げておきます。9割というのは、あくまでも目安です。目指すのは、10割です」