魔王に甘いくちづけを【完】

ユリアが王妃から貰った手紙を引き出しに仕舞いつつザワツキ始めた胸を抑えた頃、当のバルは洞窟の中で火にあたっていた。



「バル様、此方をどうぞ」

「・・・ブラッドは何処でも生きていけるな?」



冗談混じりに労うと、恐縮ですと言って一歩下がった。

外は目も開けておられん程の雨が降っている。

皆が制する声も無視し外に飛び出して行ったのは、この為だったか――――


差し出された籠の中には色とりどりの木の実がたんまりと入っている。

その中から赤い柔らかな実と緑色の堅い実を受け取る。

あのような悪天候の状況で、よく採れたものだと感心すると同時に心配する。

髪からも服からも雫がぽたぽた垂れて、乾いた土に次々に模様を描いていた。



「“隼のブラッド”と言えど、流石に雨は避けられんか。体に毒だ。早く拭いて火に当たれ。ザキ―――」

「はい、バル様―――・・・ブラッドさん、それ俺配るんで。いいっすよ」

「ああ・・・すまんな、頼む」



ザキがブラッドから籠を受け取り、騎士団員とサナの元へ行く。

騎士団員は素直に受け取ってるが、我儘なサナは「これじゃないのがいい」と渡す傍から次々に交換を迫りザキを困らせていた。

「んじゃ、自分で選んで下さいよ」

どさっと籠を置く音と不機嫌そうな声が聞こえてくる。


「サナさん、どれも美味いですよ。この俺が採って来たんですから」


濡れた服を脱ぎ絞りながら、籠の中を真剣に物色し始めたサナに言葉を向けるブラッド。

ザキは腰に片手を当ててだるそうにサナが選び終えるのを待っている。



「ブラッド殿、有り難く戴きます!」


騎士団員が木の実を掲げて明るくそう言うと、すぐにシャリシャリと音を立て始めた。


「おぉっと・・・すげぇ美味そうっすね。じゃ俺も――――戴きます」


と、ザキもそれに倣い黄色い木の実をかじり出した。



手渡された赤い木の実をじっくり眺める。

ラッツィオのマルベリーに似てるが、匂いは酸味があるように感じる。

ブラッドに向けて目で礼を言い一口かじった。

少しの酸味と甘い果汁が口の中に広がってゆき、疲れた体が癒されていく。



―――彼女も、これを食べていたのだろうか―――


そう考えると自然に口元が緩む。

どんな幼少時代を過ごしたのだろう。

どんなふうに育ち、どのような時を過ごしたのだろう。


知りたいと思う、もっと。

もっと深く―――



ふところに入れた物を取り出して眺める。

事前に集まった情報から考え、辿り着いた一つの可能性。

証拠を追い求めてはるばるこの地までやって来た。

これを見る限りでは、彼女の祖国はここに違いない。


これが記憶が戻るきっかけになればいいが―――