魔王に甘いくちづけを【完】

「貴女様にと、王妃様よりお預かり物が御座います」


紙袋を二つ抱えて入ってきたアリは、開口一番にそう言うと、そのうちのひとつ、薄桃色の方をソファテーブルの上にガサッと置いた。


「手紙も御座います。どうぞ」

「王妃さまからですか?・・・ありがとう」



微妙に警戒しながらも、差し出された薄桃色の封筒を受け取る。

四隅に赤い花の絵が描かれてて、王妃さまらしいとても綺麗なもの。

真ん中には「ユリアさんへ」と、女性らしい細くて丁寧な文字が書かれていた。



「私の存じ上げます限り、それは王妃さまの筆跡です。今から拝読されますか。講義は少々遅れても構いません」



あの出来事でマリーヌ講師が自宅謹慎になってしまい、今日からアリが講師として来るようになった。

議論の結果、警護も兼ねて、ということらしい。



こうなることは何となく予想はしていたけれど、やっぱりどうしてもこの方は苦手で困る。

話しかけられるたびに身構えてしまう。



「・・・少しだけ待っててください」



裏を返すと、王妃さまの紋章なのかアイリスの押印が施されている。

重厚にピッチリと封がされていて、手ではとても切れそうにない。

ペーパーナイフを探そうと、立ち上がろうとしたら上から声が降ってきてドキッとする。



「ナイフをお探しならばここには御座いません。私が致します。お貸しください」



手を見ると、器用にも人差し指だけ爪を長くしている。

お願いしますと渡すと、指先だけを動かしてピッと切り裂いた。

折り返しの部分がふわりと浮く。


「ありがとう」

「・・・いえ」



中を見れば、淡い緑色の便せんが入っている。

3枚ほどにわたってびっしりと書かれていた内容は、自らの近況と雑談的なことを中心に長々と書かれていたけれど、要約すれば“お見舞いとお詫び”だった。




『――――で御座いますの。可笑しいでしょう?

ユリアさん、私これでも、いろいろと申し訳なく思っておりますの。

でも今はこんな状況で、公務が重なっておりまして。

どうしてもそちらに伺うことが出来ませんわ。

許して下さいましね。

その代わりと言っては何ですけれど、例のコックに再びお菓子を作らせました。

今度は別のものですの。

今回もきっと、お気に召していただけると思いますわ・・・―――』



テーブルに置かれた薄桃色の紙袋を見る。

以前、お部屋まで持参して頂いたものと同じ。


・・・カフカのお菓子が、あの中に入ってるのね・・・

お茶の時間に頂こうと決めて、再び手紙に目を落とす。


最後の方まで読み進むと、ある文が目に入って途端に心が騒ぎだした。




『――――・・・。そうですわ。朗報が一つだけ御座いますの。

あの子がもうすぐ帰城すると、サナから連絡がありましたの。

とても喜ばしいことでしょう?

貴女も、長い日数お待ちになっていましたものね――――・・・』



手紙を丁寧に折りたたんで封筒の中に入れた。



――――バルが、もうすぐ帰ってくる――――