魔王に甘いくちづけを【完】

「ありがとう、ユリアさん。明日、みんなに話そうっと」


無邪気にエヘヘと笑う。

彼が灯りを点けなかったお方と同一人物だということは、黙っておこう。

夢を壊してはいけないものね?


ずっと沈みがちだったのに、一気に楽しげになったわ。

その落差にザキの渋い顔が思い浮かんだ。


「このことは、ザキには内緒なのよね?」と言うと「もぉユリアさんったら。今それを言わないでっ」って、ぷぅと膨れた。



―――素直で、とても可愛いわ―――


あの時のことを思い出すと、自然に笑みがもれる。







「・・・さて、何事か思いに耽ってるようだが、そろそろいいか?――――さぁこっちを向け。主治医の俺の目は、誤魔化せんぞ―――」

「――――はい?」


咳払いのようなものが聞こえた後、たしなめるような口調で話しかけられてハッと顔を上げる。

優しい中にも厳しさを持ったダークブラウンの瞳が「話せ」と語りかけていた。


「―――さっきは、どうしたんだ?」


その一言で、すとん・・と肩の力が抜けた。

バレてないと思ったけれど、見透かされていた・・・ほんと、ジークには負けてしまう。



「伊達に、毎日お前を診察してる訳じゃぁないぞ?」


「はい・・・ごめんなさい。・・・実は、ルガルドの名前を聞いて――――・・・・」








城宮の最上階。

他の部屋の調度品に比べて、明らかに違うその豪華さ。

窓にかかるカーテンまでも違い、一目で妃候補の部屋だと分かる。

その中で、窓際に置かれたソファに向かい合って座る、医者ジークと妃候補のユリア。

ユリアが話すのを、太目の指で顎を撫でつつ聞くジーク。

頷き、時々相槌をしてるのも見てとれる。

時々俯いて、首を傾げたりしながら話すユリア。

仲のいい親子のような姿。



その二人の姿を、向かい側の碧い屋根からじっと見つめる鋭い瞳があった。

いつからそこにいるのかは不明だが、一連の出来事を見ていた様子。


茶系の美しい羽を持った体がぴくっと動いて、翼を少しだけ広げた。

部屋の窓に、白いものがふわりと舞い降りるのが見えたからだろう。


遠くても分かる。

ガラス玉の瞳と間違いなく見つめ合っている。

固まったように暫く動かなかったが、その鋭い瞳に、ユリアが窓に駆け寄るのが映るとバサッと翼を広げて飛び立った。


雄々しい翼を広げ優雅に滑空する姿。


挑発するように城の上空を旋回した後、ロゥヴェルの方向、遠く彼方へと消えていった。