魔王に甘いくちづけを【完】

「確かに貴女が書いたのですね?」

「はい。昨夜、夕食後に」

「・・・妙な現象を起こし、消えた・・・ならば、使用したインク、もしくはペンが怪しいと思われます。心当たりは御座いませんか?」



ルガルドがマリーヌ講師に尋問するそばで、アリは椅子を天蓋の下に移動させていた。



「ペンを新しく購入されたとか・・・」


ルガルドの言葉遣いは丁寧だけれど、やっぱりどうにも怖ろしい。

青ざめながらも震えることなく対応してるマリーヌ講師を尊敬してしまう。



「わかりませんわ。いつも通りの物を使用致しましたので。インクも、ペンも―――・・・えぇ、何も心当たりは御座いません」

「そうですか、成程―――・・・」


急にハッとしたように顔を上げて、ルガルドを見るマリーヌ講師。

ルガルドはそんな様子を目を逸らさずにじっと見ている。

普通に立ってるだけで威嚇出来そうな風貌。

何もかもを見通そうとする鋭い刃の瞳。


マリーヌ講師の眼鏡の奥が恐怖と焦りの色を浮かべ始める。



「ル・・・ルガルド様。信じて下さいませ。あのっ、私は変な術などは、決して・・・。それに、依頼したとかその様なことも、何もっ。私は、何も存じません」



「・・・落ち着いて下さい。それは我々も承知致しております」


一拍置いて、狼狽えながらも必死に無実を訴え始めたのを見据えながら言葉をかけるルガルド。

心の中はどうだか見当もつかないけれど、傍目からはどう贔屓目に考えてもそう思ってなさそうに見えた。



その向こうではアリが椅子に上り、天蓋の上に残ってる紙の切れ端を回収していた。

暫くその場で考え込んでいる。

やがて床の紙も拾いあげながら二人の傍に戻ってきたアリは、冷淡な瞳でマリーヌ講師を見た。



「偶然とはいえ、結果的には“彼女のペットに救われた”ということです。これに何の術が施されていたのかは分かりませんが、未遂に終えることが出来ました。礼を申し上げるべきです。ルガルド殿、サナにこれを―――」

「―――承知した」


男ながらにしなやかに美しい手から、剣ダコのある厳つい手に紙袋が渡る。

中身は、散らばっていた紙。


・・・サナって、誰かしら・・・。