魔王に甘いくちづけを【完】

部屋を見回して白フクロウさんを探せば、天蓋の上を避けてクローゼットの上にとまっていた。

悪戯で破いていたら急に爆ぜて黒い煙が出たんだもの、怯えるのもしょうがないわよね。



「白フクロウさん、気分転換に外に出てみる?」


一応話しかけながら鍵を回して窓を開けた。

爽やかな空気が入り込んで、思わず胸一杯に吸い込む。

気付かなかったけれど、黒い煙のせいで空気が汚れていたよう。

淀んだ気配が清浄なものと入れ替わっていく。



「白フクロウさん?」

もう一度呼んだら、ぴくんと頭を動かしてこちらを見たので手招きしてみる。

けれど、動く気配がなくて、逆に目を瞑ってゆらゆらと舟を漕ぎ始めた。



・・・眠いのね・・あんなことを体験しても平気そう。

結構、ずぶといのかもしれない・・・。



音を立てないように、そぉっと窓を閉める。




――――バァン!!―――

「大丈夫なのかっ!!」

「ぴっっ!」



静かな中、急に響いた大きな音と野太い声。

心臓が飛び出るくらいに跳ね上がり、声にならない息が漏れて体がびくんと飛び上がった。

脚までガクガク震え出して、さっきの出来事よりもよほど驚いたし、怖い。

白フクロウさんも同様みたいで、羽が逆立っていていつもよりもさらにほわほわまんまるに見える。

ガラス玉の瞳を大きく見開いて、鳴き声を上げながら忙しなく翼を動かした。


―――ジークったら、ノックもしないなんて―――


ドキドキする胸を押さえながら振り返ったら、重い鞄を抱えて、真っ直ぐに猛然と歩いてくるのが見えた。

その後ろから、あまり会いたくないお方と、見知らぬお方が、ジークとは反対に落ち着いた様子で静かに入ってくる。



見知らぬお方は、前者に比べるとかなり厳つい体つき。

ボブさんに向かって「ご苦労」と、ビシッと背筋を伸ばして手を頭の上にかざして挨拶してる。



会いたくないお方のほう・・・アリは、優雅に「失礼致します」と挨拶した後部屋の中を見廻した。

久しぶりに会うけれど、相変わらずの無表情。

床に散乱する紙を見て「うむ・・・これですか」と呟いて片膝を立てて沈み込んだ。

大小様々に千切られた紙。

そのうちの大きめの切れ端を、指先でツンツンとつつく。

そのあと、膝の上に腕を預けて思案を巡らせ始めた。



見知らぬお方も、きびきびとした動きで「失礼致します!」と、これまたビシッとした口調で挨拶をした後、アリの隣にサッと沈み込んだ。


「アリ殿、どのような感じですか」

「あぁ・・・」


二人の声がどんどん小さくなっていく。

互いだけに聞こえる音量で話しているようで、口が動くのは見えるけれど、ちっとも声が届いてこない。

私には聞かせたくないのかも。



ジークは、少し落ち着きを取り戻したようで、鞄をゴトンと置いて、窓際にいる私の傍まで静かに歩いて来た。



「平気か?歩けるか?見せてみろ」