魔王に甘いくちづけを【完】

そぉっと手で包み込もうとしていたら、突然目を開けて一声鳴いて大きく翼を広げた。


「・・・きゃっ」


羽ばたきながらくるんと廻るものだから羽が当たりそうになって、てのひらで顔を庇いながら斜めに避けた。

その隙に、バタバタと飛び立っていく。

天蓋の上に戻っていく足には、四角い紙がヒラヒラしながらもくっついている。

よく見ると、器用にも爪の先に引っ掛けていた。



・・・あれは、問題用紙、よね・・・



呆然としていると、マリーヌ講師の毅然とした声が部屋に響いた。



「何をするの。それを返しなさい!」



つかつかと天蓋の下まで行って、手を伸ばしている。

私よりも背の高いマリーヌ講師でも、天蓋の桟にはどうにも届かない。


白フクロウさんは足の下に紙を敷いたまま、手を伸ばしてぴょんぴょん跳ねる姿をじっと見下ろしていた。


やがて、びりびりと裂ける音がし始める。

嘴と足を駆使して、紙を引き裂いていた。

マリーヌ講師の顔色が青くなったり赤くなったりするのを見つつ、一緒になって愕然とする。



―――白フクロウさん、何てことをするの??



「な・・・何を!」


せっかく作ったものを!と叫びながら、マリーヌ講師が天蓋の支柱を持って、上を睨みながら揺さぶり始めた。


ガタガタと揺れる天蓋。

ばさばさと翼を動かしながらバランスを取る白フクロウさん。

その最中にも嘴と爪を使って、紙をビリビリと引き裂いている。


揺れる天蓋から、紙の切れ端が何枚もひらひらと舞って床に落ちた。


拾い上げようと手を伸ばしたその瞬間。

ある現象が目に入りすぐさま手を引っ込めた。



書かれてる文字が、ずずず・・と動いて一つに纏まっていく。

散らばった紙、それぞれで一つにまとまった黒い塊。

それがプルプルと震えている。



「何・・・が、起こってる・・の・・・?」




――――ポン・・・ポッ・・ポン・・・



小さな破裂音とともに、それらが全て霧となって掻き消えてしまった。

天蓋の上でも同じことが起こっていて、黒い煙のようなものが立ち昇ってるのが見える。


マリーヌ講師も下からその様子が見えたのか、固まったまま動かない。

白フクロウさんはといえば、天井近くを飛び回っていた。



「・・・・今のは・・・一体何ですの・・・?」



天蓋の支柱を持ったまま、ずれた眼鏡を直しもせず、呆然と呟いた。



―――嫌なことを思い出した。

あのとき、差し入れられた手紙に入っていた黒い影の塊。

あれは、床に吸い込まれるようにして消えていったっけ。


あの後に体験したおかしな現象・・・暗闇の中を彷徨って・・・・。

今思い出しても、背筋に冷たいものが走る。


もしかしたら、これも―――?