魔王に甘いくちづけを【完】

「これは昨夜作ったもので・・・今までの講義の内容総てから出してございます。ま、実力試験ですわね」


コツコツとヒールの音を立てて歩み寄り、テーブルの上にパサ・・と紙を置いた。


「申し上げておきますが・・・後日、庶民の暮らしの見学をするよう計画致しております。ただし、この成績が悪ければ取りやめに致しますので、心してお解き下さいませ」

「城下に行けるのですか?」



思わぬことに嬉しくなって、胸の前で手を合わせてマリーヌ講師を見上げる。

―――外出だなんて。

例えそれが馬車の中から見るだけにとどまったとしても、外の雰囲気が味わえる。

こんな楽しみなことはないわ―――



「えぇ、精々励んで下さいませ」



恋をしていても、眼鏡を上げる仕草とツンとした物言いは相変わらず。

普通はもっと柔らかくなると思うんだけど・・・。



テーブルに置かれた紙を見れば、問題が細かくびっしり書かれている。

こくんと息を飲む。・・・出来るかしら・・・。



「これ、全部・・・ですか」

「はい。そうで御座います。さ、始めてくださいませ」



くるんと背を向けて、椅子に戻って再び本を開いた。

ため息を吐きつつ問題に立ち向かう。


一問目の問題を読み始める。


と、突然――――――


ふわりと舞い降りた白い何かに視界を覆われた。

一瞬何が起こったのか理解できず瞳を瞬かせていると、鳴き声が耳に届いた。



・・・え・・・白フクロウさん?

急にどうしたの・・・?



問題用紙の上に鎮座して、ガラス玉の瞳をくるんと回して首を少し傾げて見つめてくる。

ふるふると、何とも言えない衝動が沸き起こる。

可愛いっと叫んで、抱き締めて頬ずりしたくなる。


けれど、今は・・・。

チラッとマリーヌ講師を窺う。

本を読んでて、まだこちらに気付いてない。

邪魔してるって分かったら、きっと部屋から追い出されてしまうわ。

それに何より、この出来如何でこれから楽しみが出来てワクワクするか、へこむか、どちらかになるんだもの。

早く退いて貰わないと・・・。


内緒の声で囁きかける。


「駄目よ、退いて?問題ができないわ」


触れたら嘴で攻撃されちゃうかしら。

そんなことを思いながら、恐る恐る手を近付ける。

じーっとしてて動かないので、思い切って小さな頭に指先をそっと乗せてみた。

避ける風もなく、目を瞑って大人しくしてる。

ソロソロと撫でてあげると、ゆらゆらと揺れ始めた。


疲れた頭がじわぁと癒される。


―――とても気持ちよさそうにしてるわ。

これなら抱っこできるかも―――