魔王に甘いくちづけを【完】

パタン、とドアのしまる音を聞いて、アリが外に出たことを知ってホッと息をつく。


ほんとに、全く、何を考えてるのか分からないお方だった。

もう、会うこともないわよね。


ゆっくりベッドから降りて、ドレスのしわを伸ばして調えてソファへと移動すると、白フクロウか、と呟いたジークの視線は天蓋の上に向かって固定されていた。

見上げると、例のごとくまるく埋まって、ゆらゆら揺れながら眠っている姿が映る。


ペットって、この子のこと?

昨日はあれだけ“正体不明”だの“警戒心を持て”だの言ってたのに。

どうして考えが変わったのかしら。

ほんとに訳が分からない。



こうしてるとやっぱり可愛い。

昨日むくむくずんずん大きくなったのが、嘘のように思える。

そういえば、この子がラヴルのところに連れてってくれたんだっけ。

偶然でも何でもいいわ。会えたんだもの、感謝しなくちゃ。



部屋に戻ってることと、アリがペットだと言ったことを不思議に思いつつも、まぁいいか、と深く考えるのをやめた。

私には到底理解できないようなおかしなことばかり起きた。

これ以上考え続けても分からないことだもの、仕方がない。

多くの謎が頭の中で渦巻くのを隅に追いやりつつ前を見れば、ジークがウーン・・と唸りながら、こくりこくりと舟を漕ぐ様子を、まだ見ていた。



「―――まぁ・・・バル様は、お前がいいなら、と許可するだろうな。アリ殿が言う通り、悪さをするような邪気は感じられんしな」



くるんと振り返ったジークの肌が、普段よりも艶々しているように見える。

やっぱり、昨夜は――――

幸せそうに笑う優しい顔が目に浮かぶ。

愛する方と離れてるのは、寂しくて辛いもの。

昨日だけと言わずに、もっと行けばいいんだわ。



「ジーク、昨日フレアさんのところに行ったのでしょう?」

「あぁ、行ったぞ。リリィには力強い友人が。お前にはアリ殿がついていたからな。森に、行かせて貰った」



穏やかににこにこと笑う。

ゴトンと、足元に鞄を置いて早速診察が始まった。

いつも通りの視診から触診まで。

触診をしてるジークの眉がぴくぴくと動いて、どんどん険しい表情を作っていく。



「アリ殿からも聞いたが。昨日は、本当に、何もなかったんだよな?」



野太い声が、さらに低くなってる。

心臓がトクンと脈打つ。

心当たりなら、アレコレ沢山ありすぎる。

平静を装うけれど動揺が声に出てしまった。



「な・・・何もありませんでしたけど」


「本当に、そうか?・・・疲れがみえるぞ。まさかとは思うが、お前、アリ殿に――――」