魔王に甘いくちづけを【完】

いつものように不思議な力で拘束されてなくて手の自由はきくけれど、後ろから抱き締められてるし、狭いヴィーラの上だから逃げることも叶わない。

これ以上脱がされないよう押さえてるのが精一杯の状態。

無駄だと思うけれど、一応お願いしてみる。


「・・ラヴル、あの・・・お願い、待って」

「待たない」



でも。

ここはヴィーラの背の上で、今は空を飛んでるんだけど。

貴方は平気そうだけど、結構な速度で飛んでいて、私はとても怖いのだけど。

それに、とても寒いわ―――


「ラヴル、あの―――ぅぐ・・」


心の叫びをそのまま出すべく反論しようと口を開いたら、長い指がするんと入り込んだ。

同時に容赦なく当たっていた風がピタリとやんで、あたたかい空気に包まれた。


「ユリア、私に身を任せてればいい。すぐに温めてやる」


耳に吐息をかけられて、それだけでもぞくぞくとした感覚に震えてしまうのに、触れてくる唇までもが強く激しくなった。



・・・やっぱり、ラヴルはずるいわ・・・



差し入れられてる指を思い切り噛もうかと考えるけれど、与えられる刺激に翻弄されて、すでに力が抜けてしまっている。

声も出せなくて、苦しくて瞳に涙が滲んできた。


熱を持った吐息だけが指の隙間から漏れていく。

と、口の中から指がすりぬけてそのまま唇をなぞった。

あまがみしていた唇は、体の輪郭を辿るように首から肩へと動いていく。

ある場所にきてピタと止まった。

ゆっくりと、そこを避けて唇が這う。

そこは、白フクロウさんが掴んでいた場所で、ずっとぴりぴりとした痛みを持ってるところ。

多分、怪我をしてるところ。


「ここ、すまなかったな」


長い指が傷を数回なぞると、痛みがすーと癒えていった。

そのあとそっと唇が落とされる。




「―――もうすぐ着く。続きは後だ」



ドレスが直されるのと同時にヴィーラが下降していく。



目に映ったのは、木に囲まれた場所にあるこじんまりとしたお屋敷。

紅い屋根、庭には小さな池。

月が映って水面がきらきらと輝いて見える。

ふわりと下りたヴィーラの近くに、一人の女性が立っているのが見えた。



「御久し振りで御座います、ラヴル様」

「うむ、準備は出来ているか」


すっと抱き抱えられてストンと地面に降り立つと、女性が近くに寄ってきて頭を下げた。

腕の中にいる私をじっと見つめるそのお顔は、とても若くて美しい。

多分、ラヴルと同じくらいの年齢。

もしかして、この方がラヴルの新しい人?


「はい、もちろんで御座います―――フフ・・随分可愛らしいお方ですこと」

「ユリアだ・・・シレーヌ、余計なことは言うな」

「まぁ、怖い――――そのご様子、貴方らしく御座いませんわね。此方へどうぞ」


低く脅すような口調に対し、コロコロと笑い声を漏らす様子は余裕たっぷりで、言葉とは裏腹にちっとも怖そうに見えない。



この方は何者なのかしら・・・

新しいお方と思ったけれど、違うみたい・・・。