魔王に甘いくちづけを【完】

―――体の重さ、貴方は誰と比べているの?

その優しい瞳は、今傍に居る方にも向けてるのでしょう。

どんな方が、貴方の傍にいるの・・・

きっと、大人の色香漂う美しい方よね。

背の高い貴方と並んでも見劣りしないような。

胸も豊満な、私とは違う素直な・・・。


いろいろ想像していたら、とてつもなく哀しくなってきた。


・・・どうして、私ここに居るのかしら。

それに私は、城に戻らなくちゃいけない・・・。


哀しい色を乗せてラヴルを見上げる。

と、瞳がさらに優しくなっていた。

どうしてそんな目をするの―――?



「貴女は相変わらずだな。急に元気が無くなった。今度は何を考えている?」

「・・・ラヴル、私を」

「あぁ待て。後でゆっくり聞こう―――・・・来い、ヴィーラ」


突然変わった厳しい顔つき。ぴりっとした緊張感が漂う。

ラヴルは、少し眉根を寄せた表情で前方をじっと見ている。



「何か、来るの?」


不安になってラヴルの上着をぎゅっと掴んだ。


「ユリア、そう心配するな。大丈夫だ、私がいる」



そのあと直ぐに、白フクロウさんとは比べ物にならない程の大きな羽音が近付いて来て、周りに風を起こしながらふわりと地面に降り立った。


軟らかな毛並みを持つ白い巨体と、ギョロリと動く大きな瞳。

懐かしくて会えたことが嬉しくて自然に笑みがこぼれる。


「久し振りね、ヴィーラ」


返事の代わりに大きな瞳がくるんと動いて、パチパチと瞬きをした。

長い睫毛がわさわさと動く。

触角が延びてきて頬を優しく擽ぐる。

それを手に取ってそっと握ると、ブホォッと笑った。


「・・・いつの間に仲良くなった?」


ヴィーラの触角から引き剥がして、背に乗せながら聞いてくるラヴルの声は、ちょっぴり不機嫌そう。


「ラヴルがいないときよ。ライキに仲良くなれって言われたの。それまでは怖いと思っていたけれど、ヴィーラは優しい子ね。すぐに仲良くなれたわ」

「ヴィーラが?・・・ふむ、貴女がそんな表情するとは―――」


ひらりと乗り込んだラヴルの腕がお腹にまわった。

苦しいくらいに抱き寄せられて、耳朶をあまがみされる。


「ぇ・・・っん」


そのままの状態で「行け、ヴィーラ」と命じたものだから、鼓膜が揺さぶられてゾクゾクとした感覚が背筋を這い上がった。

堪らずに出した吐息を誤魔化すようにラヴルに問い掛ける。


「何処に、行くのですか」

「黙っていろ」


肩に冷たい空気が当たって、ドレスが脱がされかかってることに気付く。


―――まさか、こんなところで?

わたわたと焦りながら、ドレスをしっかりと押さえた。