魔王に甘いくちづけを【完】

―――・・今、何て言ったの・・・重くなった?・・―――


「ご苦労だった。事後処理に向かえ」

「―――承知」


―――誰と、お話してるの?―――



ふわふわと空を漂うように下降して、腕の中にすっぽり嵌った瞬間瞳に映ったのは、貴方の妖艶な微笑みだった。

それは、ずっと、ずっと夢に見ていたもので。

もう見られないものと覚悟していたもの。

あまりの驚きで、声も出せずに茫然と見つめてしまう。



「・・・漸く、私の腕に戻ってきたな」



・・・この声・・・聞きたかった。

心地好く鼓膜を擽る、落ち着いた静かな声・・・



「・・・ラヴル、なの?・・・本物・・・なの?」



・・・ウソじゃないわよね・・・

このまま消えたりしないわよね・・・?



恐る恐る手を伸ばしてそっと頬に触れてみる。

滑らかな手触り・・・確かに、ここにいる・・・

幻でも何でもなく、私を腕に抱いてくれてる。


でも、どうしてここにいるの?

偶然、なの―――?


今起こってることが信じられなくて、戸惑ってしまう。

夢かもしれないと思うけれど、白フクロウさんに掴まれていた肩の痛みが現実であると教えてくれてる。



頬に触れていた手が、何かに引かれたように、急に離された。

意に反してすーっと動いていく手は、色素の薄い唇に柔らかく当たってそのまま固定される。

動かそうと頑張ってみても、例のごとくびくともしない。


手の甲が唇に当たっては離れを幾度も繰り返す。

静かな夜の空気に、幾度もリップ音が響く。


久しぶりに見る妖艶な瞳。

それに加えて手に与えられる甘美な刺激。

血を吸われたときの感覚や、抱かれたときのことが、頭の中にありありと蘇ってしまう。

一気に頬が熱くなって、体までも火照ってきた。


このままだと、我を忘れてしまいそう・・・。

何か話しかけないと。



「・・あの・・・ラヴル、手を・・」


堪らなくなって声をかけると、痕跡が残るほどの強い口づけのあとに漸く解放された。



・・・ふむ、奴は意外にも紳士だったというわけか・・と呟いた後、漆黒の瞳が体を舐めるようにゆっくり動いていく。

胸のあたりから腰、そして脚へ―――


それが色香を放ってて、視線だけで体に触れられているようで、再び震えてしまう。

そんな私の反応が愉快なのか、満足げにクスクスと笑ってる。



「ユリア、あとで心地良い夢をたっぷり見させてやる、待ってろ」



耳に顔を近付けてそう囁くものだから、心臓が跳ね上がって焦ってしまう。


「そ・・・そんなこと、望んでません」



色香たっぷりの声。

どうしてこの方は、男性なのにこんなに色気があるのかしら。

女性の引く手数多なのも分かる気がするわ。