魔王に甘いくちづけを【完】

「ダメだよ、リリィ。笑顔の安売りしたら」

手を引っ張られながら耳打ちされた。


「え?どういうこと?」


すると、すぐ横から声が出てきた。


「そうよぉ、男の子なんて単純なんだから。笑いかけただけで、気があるって思われちゃうよ?」

「うそ。そんなつもりないよ・・・」


戸惑ってると、後ろからも声がかかった。


「あの男の子、後で絶対リリィのところに来るよ。ほら、見て」


促された通りに振り返ってみると、さっきの男の子が同じ場所に立ったままでいて、こっちをずっと見ていた。

ばっちりと目が合ってしまって、男の子が手をあげて満面の笑みを向けてくる。


「え・・・それは、困る。どうしよう」



ザキの怒った顔が頭の中でちらつく。

オロオロして助けを求めるようにみんなの顔を順番に見る。

何しろ何もかもが初めての経験。

ここは、場馴れした先輩たちにすがるしかない。



「ね、どうしたらいい?対処法を教えて」


「リリィ、大丈夫!何のために皆がいると思ってんの。私たちが守ってあげるから。でも、今からはちゃんと気をつけるんだよ?」

「気に入った男の子にしか笑顔を見せない。リリィは特に気をつけないと」


「うん、分かったわ。気をつける」


楽しみ過ぎて、ふにゃぁとしたしまりのない顔をぴちぴちと叩く。

きっと、隙だらけなのに違いないわ。


「そんな叩かなくても・・・分かったならいいよ。さ、気を取り直して、楽しもうよ!」




皆でわいわいと料理を手に取って食べていると

「ね、君たち。ちょっといい?」

と、同じく5人の男の子のグループに声を掛けられた。


「俺たちと話しない?」


皆で顔を見合わせる。

好感を持てる清潔な感じの男の子たち。

人数も合うし、皆が頷き合って快く返事をする。


「えぇ、いいわよ」

「良かった!」


男の子たちの顔がふわっと綻ぶ。

皆での楽しいお喋りが始まった。

リリィもみんなと一緒に屈託なくお喋りする。


ちょっぴり不安が残るけれど、マリーヌ講師と同じく、リリィも仲間に守られながらもなんとかパーティを楽しめそうだ。

しかし、ヘカテの夜の楽しい集まりはまだまだ始まったばかり―――






空に浮かぶ月に女神ヘカテの姿がすぅ・・と浮かび上がる。

ずっとあったけれど今まで見えなかった、それ。

のっぺりとした顔に風になびく長い髪、身に着けた白い衣もゆらゆらとはためく。

カッと開かれた瞳は地上を睨みつけ、広げられた両腕から魔力が存分に地上へと降り注がれていた。


最大限に注がれる女神の力。


本格的な満月の夜は、すでに、始まっていた。



それぞれの、長い、長い夜――――