魔王に甘いくちづけを【完】

「湯は此方で御座います。着替えはこちらにありますので、ご自由にお選びください」

白い戸棚を指差してそう言うと、カルティスはドアをピッチリと閉めた。


湯煙でけむる向こうには、石で囲まれた湯船があり、中には乳白色の湯がたっぷりと入れられていた。

ユリアは長い髪を紐でまとめ、溢れるほどの湯の中にゆっくりと身を沈めた。


昨日まで鎖に繋がれていたのに、この待遇が信じられない。


豪華な食事と、大きなお屋敷―――

空飛ぶ謎の生き物・・・あの生き物もオークションで手に入れたのかしら。

私、もしかして、何か変な病気になっていて実際は眠ってるのではないのかしら。

それで、これは、決して目覚めることのない長い夢を見ているのかもしれない。

もしかしたら、今も、あの何もない部屋で、鎖に繋がれているのかも・・・。


でも・・・この肌に当たる湯の感触は、どう考えても夢じゃないわね。


何故だか、今のところ扱いは良いけれど、それは私が具合が悪くて、今にも倒れそうに見えるからだわ。

ナーダもしっかり食事をとるようにと、目を離さないようじっと見ていたし・・・ずいぶんと、私に体力をつけて欲しいみたいだった。


体力さえつけば、働くことが出来るもの。

きっと、人間の私にしかできないことをやらせるつもりなんだわ。



ユリアは湯船から出て、温まった体をしっかりと拭いた。

戸棚の中を見ると、何種類かの色のドレスがハンガーにつられている。

どの服もレースや刺繍が施されていて、とても豪華―――

どうしよう・・・こんな豪華なドレス。

今まで着ていた、この夜着が、買われた自分の身には一番似合っているような気がするわ。


ユリアは迷った挙句に選んだものを着て、ピッチリと閉められていたドアをそっと開けた。


するとカルティスがさっと現れ、驚いたように目を見開いた。


「それで宜しいのですか?」

「えぇ、いいんですこれで。有難うございます」


「ですが、ラヴル様は――――まぁ、いいでしょう。ラヴル様がお待ちです。此方にどうぞ」


カルティスの後について行くと、長い廊下の突き当たりの部屋に案内された。



「中でラヴル様がお待ちです」



その部屋は広くて、灯りが付いていなくて、なんだか普通の雰囲気じゃなくて、とてもドキドキしてしまう。

脚が竦んで立ち止まってたら、「さぁ、どうぞ」と背中を押されて部屋の中に無理矢理入れられ、ドアが静かに閉められた。


「ぁ・・・あの・・・」